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6月25日(土) 晴れ、のちスコール    ベレン

この先、我々はアマゾンを渡って北上し、未知の三国(仏領ギアナ、スリナム、ガイアナ)へ向かうわけだが、その船についての事前リサーチが殆どなされていなかった。慌ててアキラが調べたところによると、渡河に1日半がかかるという。しかも船便は限られていて、トラック等を運ぶ、船室のない平板船しかないらしい。
アマゾンを舐めていた!渡河するだけで36時間かかるなんて、なんて河だ!!
ともかく、慌てて船の手配をする。船室なし、メシつきで、車、バイク、人間の運賃が800$とは予定外の出費だが仕方がない。ベレンから北上するには、それしかルートがないのだ。この先は、道というものを信用しない方がいいらしい。多分、この先、3国を抜けて再びブラジルに入るまでが、この旅最大の難所になるだろう。何しろ、ベレンより北は殆ど情報がない。
それでも、ま、行きゃあ何とかなるだろう。
しかし、若干嫌な予感がする。

6月27日(月) 晴れ ベレン→船上

朝の電話で船を予約。ベレンから対岸のマカパまで33時間から36時間かかるという。アマゾンの河口付近は、まるで海だ。真ん中にスイスより大きな島まである。なんという広さ、なんという大きさ。アマゾンは、水と緑の宇宙だ。

午後3時にホテルを出て船の出る場所へ。私たちが乗るのは車輌を専門に運ぶ平底船。50mプールほどの広さの鉄板船の上にトラックやコンテナをびっしりと積み込み、それを小さなタグボートが押して進んでゆく。長大な水の道、アマゾンには欠かせないトランスポーターである。
私たちが乗る「JOZIMA号」は3000tまで運べる鉄板平底船。車とバイク、人間五人が食事つきでトータル800$。共同のトイレとシャワーはあるが船室はない。トラックドライバーたちは自分の車の中で眠るが、私たちは鉄板の上にシュラフマットを敷いて寝るしかない。飲みものは自分たちで買い、タグボートにある食堂の冷蔵庫に入れておいてもらう。
午後6時から積み込み開始。巨大なトレーラートラックやコンテナが次々に運び込まれ、広かった鉄板船の上には猫の額ほどのスペースさえなくなる。私たちはトラックの下で野良猫のように眠るしかない。
午後8時半出港。海のように広く、湖のように静かなアマゾンの上を船は北に向かって滑ってゆく。
船の縁に残された僅かなスペースにキャンプ用のイスを並べ、買い込んだピンガにリモンを絞って飲む。
聞こえるのは重いエンジンの音だけ。風が涼しい。
2時間ほど眠って起きると、東の水平線からまっ赤な月が昇ってきた。頭上には満天の星。サソリ座と南十字星がひときわ明るく輝いている。小便をしようと船べりに立つが、手すりも何もない平底船だから恐い。
 一メートルほど下はまっ暗なアマゾン河。落ちたら終わりだ。誰も気付かないまま、私はアマゾンの藻屑と消えるだろう。

6月28日(火) 晴れ 船上

午前6時に陽が昇る。ぐっすり眠ったが、鉄板の上だから体のあちこちが少々痛い。
朝食は、炒めたコンビーフをはさんだサンドイッチと例の甘ーいコーヒー。
トラックドライバーたちは、各々自分の車の修理をしたり、洗濯したりして時を過ごしている。
息子を連れたレスラーのようなドライバー。やたら愛想のいいドライバー。他人のズボンを下げようとしたり、冗談ばかりやっているおっさんドライバー。とても荒くれ仕事をしているとは思えない、ジェントルな老夫婦ドライバー。巨大な保冷車を転がす無口なドライバー。野菜や果物を運ぶ、インディオ系のドライバー・・・。道行くことを生業とする男たちを乗せて船は行く。

ただ、泥色の水のとうとうとした流れに身を任せる一日。
本を読んで眠くなり、ひと眠りして起きる。ビールを飲んでウトウトし、だらしなく眠って起き・・・。何度目覚めても風景は何も変わらない。水面を見れば船は確かに進んでいるのだが、まるで同じ場所に止まっているように感じる。それほどにアマゾンは広く、大きく、そして動かない。
午後6時半日没。船が針路を北に向けると川の流れが止まり、河面が油のようにねっとりし始めた。熱帯雨林の先に沈む夕陽。空が金色に染まり、雲がピンク色に燃える。そして、それらのすべてが油のような河面にくっきり映る。
ジャングルの中に点在する小さな家に灯が入った。自家発電かランプだろう。こんな所にも、人は暮らしをたてている。
iPodでアルシオーネのサンバを聴きながら、リモンを絞ったピンガを飲む。贅沢な時間。至福の瞬間。もしかしたら、この旅の中でもっともゆったり過ごせた一日だったかもしれない。これが、嵐の前の静けさでないといいのだが・・・。
陽が沈むと満天の星・・・。星までが、散りばめられたダイヤのように河面に映る。進む方向に北斗七星。後ろに南十字星・・・。すでに赤道直下に近いから両方が見える。
船は、底なしの闇の中を黙々と進んでゆく。

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