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6月8日(水) 曇り     ブエノス・アイレス

朝から冷たい風が吹いている。気温もぐっと下がった。
昨日あたりから、ベランダにアルゼンチンの国旗を下げている家が現れ始めた。国旗をはためかせて走る車も目立つ。いよいよ、アルゼンチンVS
ブラジル戦の日だ。今更だが、こちらでは、サッカーの試合は単なるスポーツイベント以上のものだ。特に相手がブラジルとあっては。
私も、何をやっていても落ち着かない。気持ちは、すでに今夜の試合の方に持ってゆかれている。

午後7時。チャーターした運転手つきのバンでホテルを出発する。お大尽遊びみたいだが、帰りの混雑と混乱(特にアルゼンチンが負けた場合)を考えると、帰りの足を確保しておいた方が無難だとか。キックオフは9時45分と、日本の常識では考えられないくらい遅い。
スタジアムのかなり手前で車から降り、歩く。沿道はスタジアムに向かう人々と、もの売りで一杯だ。アルゼンチンの国旗、アルゼンチンカラーの帽子、マフラー、ハチ巻き、ネックウォーマー、風船・・・。ありとあらゆるものが、白とライトブルーの2トーンカラー。ここで黄色と緑のブラジルカラーを身につける勇気はさすがにない。私も宮崎も具志堅も薄井も、実は皆ブラジルファンなのだが、そういう顔ができないところが辛い。
キックオフ1時間前で、すでに場内は満員。あちこちで太鼓と笛が鳴り、応援歌が地鳴りのように響く。これはもう、すでに、単なるサッカーの試合以上の何かだ。その場に自分がいることが、まだ信じられない。

で、この日のアルゼンチンは圧倒的に強かった。守りは固いし、攻めはシャープ。にしても、前半で3点取れるとは自分たちでも思っていなかっただろう。片やブラジルはコンビネーションがうまく機能せず、個人技に頼るばかりでやっていることがチグハグ。ま、ムラっ気の多いところもブラジルの魅力なのだが・・・。しかし、敗けたとはいえ、ロナウジーニョの5人抜きも、ロベカルの弾丸フリーキックも目の前で見られたし、大満足。同じく、勝って上機嫌の群衆と共に帰路についたのだった。

日本が半日前にドイツ行きを決め、今、アルゼンチンがドイツ行きを決めた。興奮と充足の1日。これも、旅すればこそめぐり会えた特別な1日だ。

6月9日(木) 曇り、のち晴れ  ブエノス・アイレス→フェデラシオン(500km)

午前10時。出発しようとしていたら、ホテルのフロントのおっさんが飛んできた。手にしていた新聞を私に渡し、「これを持っていけ」と言う。新聞は、どれも一面から昨夜の試合一色。こんな時にここに居たことを忘れないように、今日の新聞を記念に持ってゆけとおっさんは言うのだった。そして、「いい旅を」とひと言。いいな、こういう大人たちは。

ブエノスの雑踏から離れて大河ラプラタに沿って北上する。

6月11日(土) 雨、時々、晴れ ブエノス・アイレス

午前八時出発。朝から断続的に強い雨。しかし、気温は17℃あるから寒くない。
40kmほど走って、サンタ・アナのミッション村跡へ。
ここいら一帯にはポルトガルから来たイエズス会の神父たちが先住民インディオたちと共につくろうとした理想郷の跡が点在していて世界遺産に登録されている。当時の物語は、リドリー・スコット監督、ロバート・デニーロ主演の映画『ミッション』でも紹介されていた。キリスト教を広めるという使命感に燃えた神父たちがジャングルに分け入り、インディオたちと交流して理想郷を建設しようとするのだが、結局は母国の軍隊によって滅されるという悲劇の歴史がテーマだった。

雨が小降りになるのを待ってミッション村跡の撮影。
さらに17km走ってサン・イグナシオのミッション村跡へ。ここの規模は大きく、当時のイエズス会がいかに大きな使命感と野心に燃えていたかが分かる。
ここも、ある種のゴーストタウン。静寂の中を歩いていると、当時の人々の声が微かに聞こえてくるような気がする。ゴーストタウンや墓場には人生と歴史が眠っている。そして、そこを歩くと誰かが話しかけてくる。昔を感じることは今を感じることに通じる。ゴーストタウンや墓場は決して恐い場所ではなく、実は人の温もりが仮眠している場所なのだ。私は、ゴーストタウンや墓場を歩くことが嫌いではない。

あまりに強い雨に先に進むことを諦め、「ホテル・サンイグナシオ」に泊まる。1人1泊10$。
村で唯一開いていたレストランで150円のピザと300円のワインの夕食。
ナトリウムランプのオレンジ色の街灯。ゲームセンターに集まる少年たち。道端に座って道行く車を品定めする少女たち。木陰で抱き合うカップル。うろつく野犬の群・・・。
予定外に泊まった小さな村の、何でもない夕暮れや夜が旅している自分を気づかせてくれる。特別なこともない、こういう夜が妙に心に残るのは何故だろう。

■ポサダ教会
■ポサダ落雷
 
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