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| インド料理は指と舌で味わうもの |
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日本料理では「料理は目と舌で味わうもの」なんだけど、これがインド料理だと「料理は指と舌で味わうもの」となる。じっさいインド人からしばしば聞かされるのは、インドでは最初に触覚で味わってから、次に味覚で味わう。だから一つの料理を二度楽しめるし、箸とかフォークを使ったのでは知り得ない官能の世界があるのだそうだ。そういえば、以前にロシア(ソビエトの時代だからあまり当てにはならない)に指先で文字を読める人ってのがいたけれど、ひょっとしたらインド人も指先で甘い辛いを感じるのだろうか。
それはまあいいとして、今回はせっかくだから郷に入れば郷に従えで、僕たちも作法通り不浄の左手は使わずに、右手の指だけでカレーを食べてみた。でもね、この指で食べるってことが、思いもかけずやっかいだった。 |
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| インドの常識は日本の非常識 |
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はじめに食べたサモサは、カレー味のじゃがいもの煮物をパイ皮で包んで揚げてある。これなんかは、お握りみたいに右手でつかんで食べればいいから、なんてことはなかった。
エビのタンドーリも、殻つきのエビの場合は日本人だって手で食べるから、大した違いはない。ただし、うっかりするとつい左手を使いそうになるので注意が必要だ。
次にカレーだけど、これもナンと一緒に食べるぶんにはさほど難しくはない。あのでかいワラジ風のものを右手の指だけで千切るのはちょっとコツがいるけれど、その後はパンでシチューをすくって食べるのと同じだから、要は器用か不器用かの技術的問題だ。
ところが、ライスと一緒にカレーを食べるとなると、話は別だ。カレーのかかったライスに指を突っ込むのには、決して行儀がいいとは言えない僕でさえも、相当な勇気がいる。もちろんグチャグチャと指が汚れて後がめんどくさいってこともあるけれど、そんなことよりも、やっぱり精神的な抵抗感のほうが大きい。だってそうでしょ、おにぎりとか鮨は別として、ご飯を手づかみで食べるなんてことは、僕たち日本人にとってはタブーの一つなのだ。だから、カレーの皿を前にして突如たちはだかったのは、指の使い方という技術的問題ではなく、じつは文化的問題だったわけだ。それでも僕は勇気を出して、両親のしつけ、社会の規範、はたまた日本人としての誇りをかなぐり捨てて、そのグチャリとしたカレーの中に、エイ、ヤッと指をつっこんだのである。
さてさて、この指の感触をいったいどう伝えたらいいのだろう。指にまとわりつくような感覚は、忘れもしない子供の頃よくやった泥遊びそのものだ。とは言っても、熱くて、柔らかくて、そして美味しい匂いがするところはカレーなのである。そこで、僕はインド人がするように指の腹にそのグチャグチャしたやつを乗せ、口に持っていった。しかし、指の使い方が下手なもんで、一回で口に入る量はほんのわずかしかない。よく外国人が使い慣れない箸でごはんを食べようとすると、ぽろぽろとこぼしてしまう、自分の指だというのにあれと同じ状態になっている。これじゃ、昼飯を食べ終わらないうちに夕飯の時間になってしまうかもしれない。自分の指で料理を味わい官能の世界にひたるには、まだまだ練習が必要なようだ。
それにしても、こうしてインド式に指で食べてみて気がついたんだけど、箸やスプーンは道具として便利ではあり、様式美としても完成はされている。けれども、便利さとは別に、日々、こんなふうに食べ物の手ざわりや、温もりを一つひとつ感じながら、肉体的な接触を持つか持たないかは、その人の世界観にも大きく影響しているはずだ。いや、その反対で、そういう世界観があるから、箸やスプーンを使わない食事文化が守られているといったほうがいいのだろう。 |
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| インド式作法のすすめ |
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よく外国を旅行していると、その国の生活習慣や風習の違いにとまどうことがある。しかし、インドの常識は日本の非常識とも思える食事の作法の違いでも、客観的にみるとどちらもいいように思えてくる。ただし、このどちらでもいいようなことが、ひとたび文化であり、その背後に民族があり、宗教があるとなると、その違いを認めな合わなくなるのが人間の困ったところで、結局そういうものに固執するあまり、地球のあちこちで紛争が起きている。そう考えると、まずは美味しい料理を食べて、互いに認め合うところから始めるのがよさそうだ。
そんなわけだから、インドの常識と日本の常識の違いを知るためにも、一度くらいは右手の指だけでカレーを食べてみることを、あなたにもおすすめしたい。しかし、いくら気に入ったとしても、この食べ方はカレー以外ではやらないほうがよさそうだ。味噌汁や納豆でやると、みじめな気分になるかもしれない。 |
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