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50年目のコリアン・レストラン
タイ料理といえばとにかく辛いものと決まっている。
けれどもタイ料理は大好きなのだけど、辛すぎるのは苦手という人も
多いはず。そこで、今回はちょっと趣向を変えて、家で作れる
あまり辛くないタイ料理を紹介します。
 
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ムエタイと唐がらしの不思議
 この世の中には色々な不思議があふれていて、たとえば、ナスカの地上絵のような不思議もあれば、前世の記憶を語る少女とか、舌に金串をさしても血が一滴も流れずに平気な顔をしているインドの行者のような不思議もある。同じように僕がいつも不思議に思うのは、普段はとても柔和で女性的ともいえる物腰のタイ人が、どういわけか食事とムエタイになるとまるで別人のように過激になるってことだ。ムエタイは、まあ見ての通りだし、食事のほうは、常人に耐えられる限界をはるかに超えた激辛の料理を事もなげに毎日食べているのだから、不思議どころか驚異である。特にプリッキーヌーという小指の先ほどもない小さな唐がらしは、そのかわいらしい見かけとは反対に、ほんの一刻みを口にしただけで辛いというよりも衝撃的な痛みで、しばらくはものを食べるどころではなくなってしまう。だからタイに行ったら、町で交通事故に会う危険よりも、料理の中に香草と一緒にあたかも地雷のように潜んでいるプリッキーヌーにこそ注意を払う必要があるってわけだ。でもね、それでも懲りずにタイ料理が食べたくなるのは、あのパクチーをはじめとした香草のむせ返るような香りや、魚を発酵させて作ったナンプラー独特うまみが、魔力のように人を引きつけるからだと思うんだな。
辛くないタイ料理なんてタイ料理じゃない?
今回訪れたタイ料理店「プリック」は、タイ人のジャランさんが10年前に開いた店で、味つけを日本人向けにアレンジすることもなく、タイそのまんまのネーティブな料理を食べさせてくれる。なにしろ店の名前がプリック(唐がらしの意味)というくらいだから、辛さのほうだってもう情容赦なく辛いときてる。ただし、注文した料理には幸いにも激辛のプリッキーヌーは入っていなかったから、ロケの最中に大惨事が起きることはなかった。
  しかし、いくらタイ料理が好きでも、毎度プリッキーヌーに怯えつつ、しかも首から上に大汗をかきながら食べるのもしんどいし、実をいうと僕自身最近はタイ料理店から足が遠のいていた。その代わり、時々自分の家でタイ料理を、それもあまり辛くないやつを作るようになったんだけど、そうすると大好きなパクチーをたっぷりと心ゆくまで食べることができるし、なによりも大汗をかかずにすむところが有り難い。
 そこで、今回はひとつ趣向を変えて、タイ料理は好きなんだけど辛いのが苦手という、僕みたいな軟弱な人のために、家で簡単に作れる「あまり辛くないタイ風料理」をいくつか紹介しようと思う。
1.ヤム・ウンセン(春雨サラダ)
<材料>  春雨、パクチー、バジル、万能ねぎ、赤たまねぎ、ナンプラー、レモン絞り汁、粉唐がらし。
      豚挽き肉炒め(豚挽き肉、しょうが、醤油、酒)
※ 春雨は食べたい量を3〜5分熱湯に漬けてから水にとりざるに上げておく。
※ 豚挽き肉は、生姜のみじん切りとは一緒に炒め、 油、酒で、味をつける。甘めが好きな人は砂糖を少し入れ
  てもいい。(※我が家では、毎回作る手間がもったいないので、一度に沢山作り、小分けして冷凍してある)
※ 万能ねぎはみじん切り、赤たまねぎは薄くスライスし、パジルは小さく刻んでおく。パクチーは適当な大きさに
  手でちぎっておく。
 ヤム・ウンセンの「ヤム」はタイ語で和えるという意味、そして「ウンセン」は春雨のことだから、要するに「春雨サラダ」という意味になる。作り方はいたって簡単で、春雨に具として豚挽き肉を炒めたものと、パクチー、バジル、万能ねぎ、赤たまねぎ等の香草類を混ぜあわせ、ドレッシングの代わりにナンプラーとレモン汁を半々に合わせたソースを和えたら出来上がり。
 ポイントは、せっかく自分の家で作るのだから、パクチーは好きなだけ使えばいいし、辛味のほうも、粉唐がらしにすれば自分で調節しながら入れることができるってことだ。なんなら、この際だから唐がらし抜きで食べてみるのもいい。そうするとナンプラーとパクチーの組み合わせによるタイ料理ならではの味わいを、唐がらしに邪魔されることなく堪能できると思う。
2.ヤム・ヌア(牛肉サラダ)
<材料> 牛肉(切り方はすき焼き用、焼肉用、ステーキ用、なんでもOK)、パクチー、バジル、万能ねぎ、
     赤たまねぎ、ナンプラー、レモン絞り汁、粉唐がらし。

 これはヤム・ウンセンの変形で、「ヌア」が牛肉の意味だから、「牛肉サラダ」ということになる。ひとことで言うと、ヤム・ウンセンの春雨と豚挽き肉の代わりに焼いた牛肉を入れたもので、その他は同じ。牛肉の香草あえといったほうが分かりやすいかもしれない。番組の中で食べたヤム・ヌアは、パクチーが3種類も入っていたけど、普通のパクチーだけでも十分美味しくできる。とくに、このナンプラーとパクチーのコンビは、すき焼きや牛丼のような甘じょっぱい醤油味の牛肉に慣れた日本人の舌には、これが同じ牛肉かと思えるくらい新鮮なうまみを感じさせてくれるはずだ。明治の初めに日本人が牛肉を食べるようになった時、未知の獣の肉をすんなりと受け入れることができたのは、ひとえに 油という素晴らしい調味料があったからなんだけど、ただし、醤油は万能調味料として臭みを消し何でも美味しくしてくれる反面、何でも同じ味にしてしまうところがある。だから、たまには 油をやめてナンプラーで食べてみるのも、新しい味覚の発見があっていいかもしれない。

アンプラグドのタイ料理
 さて、タイ料理というと、とにかく猛烈に辛いってことになっているけれど、こんなふうに辛味を抑えてみると、改めてタイ料理の本当の素顔が見えてくる。ひところロック音楽の世界で、大音量のアンプやイフェクターを使って演奏していた同じ曲を、電気的な装置を全てはずし、アコースティックな音で演奏する「アンプラグド」というのが流行ったけど、そうするとそれぞれの楽器が奏でる和音の一つひとつまでが聞こえ、実に新鮮に感じたものだ。同じように大音量かつ激烈なる辛味が当たり前のタイ料理からその辛味を抜いてみるのも、いわば「アンプラグド」みたいなもんで、ナンプラーや香草類のうまみや香りが溶け合い響きあうことで生み出されるタイ料理の本当の魅力を、はっきりと利き分けることができる。
 
 ま、そんなわけなので、軟弱だと言われようが、辛くない「アンプラグド」のタイ料理を、皆さんもぜひ試してみて下さい。
戸塚省三プロフィール
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