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50年目のコリアン・レストラン
大陸の北を代表する北京から一路やってきたのは、中国の西南に
位置し、米や茶の原産地とされる雲南省。
東京に一軒しかないとうい雲南料理の店「御膳坊」で味わったのは、
米の文化とともにある、日本と雲南との不思議なつながりであった。
 
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雲南と日本の不思議な縁
 何千という数の中華料理店がひしめく東京 で、雲南料理の店はというと、なんと六本木 「御膳坊」たった一軒しかない。つまり、それほど雲南料理は日本で馴染みが薄いってことなんだけど、でもね、じつは雲南と日本と は食文化的には不思議なほど共通点が多い。 たとえば日本人の食卓に欠かすことのできない米やお茶の原産地は雲南だし、鮨の原型であるなれ鮨も雲南から東北タイ、ラオスにかけての地域に起源を持つ。さらには納豆もあるし、長良川の鵜飼と同じ漁法が雲南でも行 われている。こうなると、やっぱり日本と雲南には何かもっと深いつながりがあるように思えてくる。
小麦文化と米文化の違いのもう一つの理由
 ところで、今回は中国を南北に分けて、北は小麦の文化、南は米の文化ってことで、まずは北京に行き、続いて雲南にやって来たん だけど、この南北の違いは、もっぱら気候や 風土の違いによるとされてきた。日本でも長野や東北では、寒冷な気候のため米がとれないから、その代わりにうどんとか、すいと ん、あるいは、おやき等が作られてきたのと同じで、説明としては至極もっともである。 しかし中国の場合、気候風土の他にもう一 つ、歴史的な、それも大陸ならではの民族的な理由があるようなのだ。で、これが我々日本人にとっては実にエキサイティングな話なんで紹介することにしよう。
  世界4大文明といわれるメソポタミア文明、 エジプト文明、インダス文明、黄河文明は、 それぞれ紀元前3000年から1500年頃にかけて成立したとされる。ところが、さらにもう一つ長江文明というのが、黄河文明よりも古い時代にあったとする説が近年の環境考古学の研究から唱えられている。ちなみに環境考古学というのは、遺跡の土に含まれる花粉やケイソウの分析からその当時の気候や森林の変遷を再現することで、その時代の動きを読み 解こうとする考古学の新しい分野だ。その環 境考古学によると、いわゆる4大文明は、今から5700年前の気候変動が契機となって誕生し、長江文明は6300年前にアジアモンスーン 地域で起きた気候変動が契機となって長江中流域に誕生したというのである。興味深いの は、他の4大文明がいずれも畑作牧畜文化を 持つのに対して、長江文明だけは稲作漁労文化よるもので、長江中流域の遺跡からは、1万年以上も前に最初の稲作が始められたことを示す形跡が見つかり、実際、野生の稲も確認されている。
雲南人と日本人はかつて兄弟だった?

 しかし、その長江文明は4000年前に再び起きた寒冷化が引き金となって、北方の漢民族の祖先である畑作牧畜民が南下してきたために滅び、長江文明を築いた人々は雲南省や貴州省の山岳地帯へ追われることになった。そして、その中の一部の人々は海へ逃れ、ポートピープルとなって台湾や日本へたどり着き、その人達のもたらした稲作農耕文化が、弥生文化へと受け継がれていったのだという。
  こうしてみると、なるほど、日本と雲南に共通点が多いのもうなずける。これまでの定説では、稲作のルーツは雲南とされていたんだけど、この新しい研究調査によれば、どうやら長江中流域ということになる。だから、日本人と雲南人は、同じ長江文明にルーツを持つ、いわば文化的兄弟であるとも言えるんだな。それと、北が小麦で南が米という南北の違いは、長江文明での稲作の起源や、北の畑作牧畜民と南の稲作漁労民との民族的なせめぎ合いや、文化的な力関係が反映されていたってわけだ。
 さて、どうです皆さん?ちょっとワクワクする話でしょ。人間は誰しも自分の祖先やルーツが気になるもんだけど、お祖父さん、ひいお祖父さんと順番に祖先をたどっていったら、遥か6000年前に、祖先の誰かが長江のほとりで田植えをしていたなんてことも、十分あり得るわけだ。
  ま、雲南料理とは、一皿の料理から、自分のルーツ探しとともに、これだけの時間と空間の物語を味わうことができる、懐かしくも、ありがたい料理なんである。それでは、ドーモ、御馳走さまでした。

戸塚省三プロフィール
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