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50年目のコリアン・レストラン
とてつもなく広い中国には、とてつもない数の料理があって、いったいどこで何を
食べたらよいのやら、誰しも迷うところ。しかし、それを南北で切ると、米が主食
の南と、小麦料理が主食の北の二つに分けられるという。それならば北と南の違いを
味わってやろうと、戸塚省三と瀬戸カトリーヌが訪れたのが、まず
は北の代表、北京ダックの老舗「全聚徳」。
新宿はJR南口より徒歩3分、山手通り沿いのT&Tビル8階。いざ北京へ!!
空港でチェックインする代わりに、エレベーターのボタンを押すと、
なんと、その先はもう北京なのでありました・・・・・。
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南の米、北の小麦料理
中国は、国土も人口もとにかく大きいうえに、歴史も古いときて る。だから料理のほうだって、北京料理、上海料理、四川料理、広東料理の4大料理どころか、さらに8大料理、10大料理まで数えら れるのだという。そうなると、一体どこへ行って何を食べたらいい のか大いに悩むのだけど、でもね、これを南北でザックリと切って しまうと、南は米が主食で、北は小麦料理が主食というぐあいに、 大きく2つに分けることができるんだね。もともとの気候風土の違いから北が畑作、南が稲作を中心とした文化圏に分かれたのだけ ど、一口に北の小麦料理といっても、麺、パオツー(包子)という肉饅頭のタイプ、マントー(饅頭)という蒸しパンのタイプ、それから 水餃子、等々、さすが中国だけあって驚くほどいろんな種類があ る。いずれにせよ、10大中国料理であろうが100大中国料理であろ うが、「2大主食」で分けちゃうことができるのだから、とりあえ ずはアレもコレもと迷わないですむ。とくに、僕とカトちゃんみたいな世界一周途上の駆け足旅行者でも、2日あれば、少なくとも主食に関しては中国4000年の偉大な食文化を堪能できる、もしくは、 堪能したつもりになれるってわけだ。そこで今回は、まずは北から攻めようと、昨年、北京から新宿にやってきた「全聚徳」に出かけ たのである。
  「全聚徳」といえば北京で140年の歴史を持つ北京ダックの老舗 で、各国の要人の接待にも使われ、日本からも女房を質に入れはし ないだろうれど、わざわざ飛行機に乗って食べにゆく人もいるほど で、北京というよりも中国を代表する、まさに国家的料理と言って もいいくらいなのだ。
北京ダックの二つの秘密
 じゃあ、それほどの地位を獲得した北京ダックとは、はたしてどのようなものなのか、その作り方を見ると、西洋料理のロースト・ダックが野蛮に思えるくらい、おそろしく技巧的で複雑な工程を経ている。
(1)まずは丸裸にされたアヒル君を熱湯に浸し、羽毛を取り除ききれいにする。
(2)アヒル君にはチョイト気の毒だけど、空気を入れて風船みたいにふくらます。
(3)脇の下に穴を開け内蔵を取り出してから、凹まないように高粱の茎を入れ、さらにお腹をきれいに洗う。
(4)姿の整ったアヒル君を専用のカギに吊るし乾燥させた後、熱い湯をかけ、再び乾燥させてから、さらに水飴を塗
   り、再度乾燥させる。
(5)すっかり身支度のできたアヒル君のおなかを閉じてから、スープを入れ、薪火のかまどにに吊るして、火加減を
   調整しながら焼上げる。
 と、まあ、これがおおよその作り方なんだけど、どうですか?料理というよりは、なんだか工芸品を作っているみたいでしょ。実際は出来上がるまでに50以上の調理工程があるそうなんだけど、残念ながら、これ以上詳しくは「全聚徳」が140年にわたって培ってきたノウハウなので、公表はできないことになっている。なにしろ国家的料理であるからして、つまりは国家機密なんである。
 さて、こうやって作られた北京ダックは、テーブルまで運ばれてくると、客の目の前で専門のコックによって一切れずつスライスされる。そして、ここが北京ダックの一番の見せ場でもあるのだけど、こんがり飴色に焼き上がった皮目に包丁が入ったとたん、ツツーとまるで湯水のように脂が流れ出る。そして、客の口からも、よだれがあふれ出る・・・・。しかし、複雑な調理法もさることながら、ここにもう一つの哀しくもまた感慨深い北京ダックの秘密が隠されているのである。そう、これだけの皮下脂肪を蓄えさせるには、特別の飼育法がほどこされているはずで、それが、強制給餌というやつなんだね。早い話が、アヒル君がもう腹いっぱいだといっても、餌を無理やり喉の奥に流しこんでやり、どんどん太らせてしまう。アア、恐ろしや人間どもの悪知恵と、その欲深さ!けれども、なんとあのフランスでも、国民的料理フォアグラをとるために同じ方法で鵞鳥を育てていたんだね。東西を代表する食文化が美食の果てにたどりついた先は、奇しくも同じ悪魔の領域だったってわけで、情熱という名の人間の欲深さと悪知恵を、つくづくと感じることのできる食べ物でもあるのだ。
主食は味覚の調停役

 ところで、さっきから北京ダックの話ばかりで、小麦料理はどうなったんだと文句が出そうだけど、これが大ありなんだな。
 
北京ダックを普通のロースト・ダックとは全く異なるたおやかで優雅な料理に高めているもの、それがダックを包んで食べる荷葉餅(カオヤーピン)という薄く焼いた小麦の皮だ。「全聚徳」では、このほかにも、空心焼餅という丸くて中が空洞になった焼マントーを出してくれるんだけど、これで北京ダックを食べると、さらにまたうまい。要するに、この荷葉餅や空心焼餅と一緒に食べるから、小麦が持つほのかな甘さによって、肉、ネギ、味噌のそれぞれの個性がやさしく包みこまれ、一つの美味しさとしてまとめ上げられる。そうなって始めて北京ダックが北京ダックとして他に並ぶもののない料理として完成するというわけで、肉だけを食べていたのでは、このまったりとした境地には、到底ひたることができないのである。
 こうしてみると、主食というのは、ご飯にしても、パンにしても、日々あまりにも見慣れすぎているので、どうもその存在感やありがたみが忘れられているようなんだけど、じつは自分自身が個性を主張しないことで、他の料理の個性や持ち味を一つの美味しさにまとめあげてくれている。いわば味覚の調停役、根回し役でもあるんだね。アレ、そういえば人間にもこういうタイプの人がいたっけ・・・・。
 ま、そんなわけで、小麦料理と主食の役割を再認識したところで、次回のTRIP3は、もう一つの主食であるお米がテーマ。大陸の南の雲南ではどんなふうに米が食べられているのか。それでは、次回までの、お楽しみ・・・。

戸塚省三プロフィール
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