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初冬を迎え、食べ物が美味しい季節になってきた。冬の酒の肴と言えば、北陸の海の幸が頭に浮かぶ。と言う事で、石川県金沢市に向った。
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| 金沢駅は最近改装されとても近代的な駅になっていた。コンコースの脇には飲食店街も有り、ちょうど昼ごろだった事も有り大変なにぎわい。その飲食店街の中に「黒百合」という、かなり古い居酒屋が有ると聞いていたので行ってみた。何度か改装されているのだろう、外から見た雰囲気はとても古い店とは思えない。開け放された入り口から店内を覗くと、大きめなコの字型のカウンターにはお客さんがいっぱい。みなさん昼食をとっているのかと思うと、目の前にはビールのジョッキや大ビンが並んでいる。昼間から酒を飲んでいるのだ。それも全員。凄い店である。しばらく観察したが、空く気配は無く、すごすごと退散してホテルに向った。 |
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| ホテルに荷物を預け、まず向ったのは、オープニング場所にと思っている金沢城址公園と散策場所にと思っている主計(かずえ)町だ。天気も良く、まだまだ時間も有るので歩いてみた。ロケは12月だが、今はまだ11月の始め。紅葉の見ごろだ。道すがら通った旧県庁の建物と植木の紅葉が素晴らしい。さらに金沢城址公園からの景色も素晴らしく、久しぶりにゆっくりと観光を楽しんだ。さらに足を伸ばして主計町を目指すと、浅野川の河畔に太田さんから名前の上がっていた「魚常」を発見。木造三階建ての立派な建物だ。割烹とあるので、ちょっと一人では入りづらい雰囲気だが、又夜に来てみよう。 |
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| 夕方、4時を回り、一軒目の居酒屋に向った。犀川大橋のたもとに有る「寺喜屋」だ。昔一階で魚屋を営業していたと言う古い建物が、今は一階から三階まで居酒屋になっている。一階は改装して綺麗な定食屋のようだが、二階三階の窓から見える犀川と犀川大橋の眺めが素晴らしい。私は一人なので、一階のカウンターに座った。4時から開店の店だがまだ客はいない。カウンターの上に並んだ、お惣菜を選びながら生ビールを一口飲んだ。女将さんと思われる方にカジキマグロの煮付けとおひたしを頼み、話を聞いた。二階三階は昔のままで、二人から利用できると言う。さらに、隣には新館が有り、厨房は共通で営業しているらしい。魚屋がそんなに儲かるとは思えないので、居酒屋で儲けたのだろう。宴会場用にビルを建てるとはたいしたものだ。その後、万歳楽の燗を一本飲み次の店に向った。 |
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| 昼間は歩いたのだが、今度はタクシーで「魚常」に向った。タクシーの運転手さんに「魚常分かりますか?」と聞くと、「たまに行きますよ。良い店ですね。古くて美味しいし。一人でも入れますよ。」との答え。これで安心して、一人で入れる。店の前に着くと、昼間よりずっと良い雰囲気だ。一階の店内はカウンターのみで、いかにも古くからやっていますと言う作りだ。しかし、とても清潔にしているところに好感が持てる。まだ二階の宴会は始まっていないのだろう。ご主人が準備をしていた。加賀鳶の純米吟醸をお願いし、刺身は何が有りますかと聞いてみた。すると、「がんどう」の良いのが有ると言う。「がんどう」とは、ブリの小さいのだと教えていただいた。お通しは煮凝りで大変美味しい。そして、出てきたがんどうは、どう見てもブリだ。さすが金沢。東京では平気でブリとして出すような魚も、しっかり区別をつけている。脂ののりも素晴らしい。これがブリになったらさぞかし凄いだろう。あまりの美味しさにもう一本、今度は燗酒をいただいた。すると、一合のガラス瓶をそのまま燗して出すと言う豪快さ。割烹と書いてあるのだからいかがなものかと思ったが、ご主人の性格と同じで飾るところが無く、かえって気持ちが良い。厨房は息子さんにまかせているらしく、ご主人は私の質問に良く答えてくれる。楽しい時間を過ごさせていただいた。(後は番組でご覧下さい) |
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金沢の飲み屋街の中心は香林坊と片町周辺だ。以前の金沢編で登場した二軒もこの辺である。インターネットで探しておいた「猩猩(しょうじょう)」は、香林坊の交差点からちょっと入った、せせらぎを渡ったところに有った。シチュエーションが素晴らしい。まだ新しそうな店だが、店の前の雰囲気が、飲み助の心をつかまえて離さない。知らないで店の前を通っても、引き込まれるように入ってしまっただろう。店内は、淡い赤を基調としたインテリアで、暖かさを感じる。先客がカウンターのほとんどを占めていたので、一番奥の席に座った。早速ご主人がお通しのたらこ煮を持ってきてくれた。すかさず、メニューに有る黒龍のいっちょらいと言う吟醸酒をお願いした。カウンターの奥に石をくり抜いた桶のようなものが有り、その中に入れた冷水で酒を冷やしている。このやり方を見ただけで、ここのご主人の酒へのこだわりが見える。黒龍とたらこの相性は抜群で、すぐに無くなってしまった。ご主人はその様子を横目で見ていたのだろう。香箱ガニを勧めてくれた。一匹千円だと言う。一匹お願いし、さらにメニューに有る黒龍の九頭龍の燗をお願いした。この酒は、ちょっと前に東京下高井戸のおふろと言う最先端の居酒屋で飲んだ事があった。大吟醸なのに蔵元が燗専用として出した酒だ。燗も、カウンターの奥に燗専用の湯煎釜が有り、その中で温度計を入れて燗される。相当なこだわりだ。ちょっと変わった徳利で出てきた酒は燗具合がとても良い。それを口に出すと、ご主人から話し掛けてくれた。「良くこの酒をご存知ですね。まだ発売されたばかりなのに。」それは、それ。こんな仕事をしていれば、珍しい酒に巡り合う事は良く有る。しかし、そんな事は言えないので、「いえ、この前偶然、ある居酒屋で飲ましてもらいました。」とお茶を濁し、店のことを聞いてみた。まだ開店して5年目だが、酒と地の魚にはこだわっているようだ。さらに、今まで入荷した日本酒のラベルをファイルしていると言う。見せていただくと、これが凄い。20册以上になるファイルは、ていねいに剥がされたラベルがコメントつきできれいに整理されている。またまた、ご主人の気合いの入れ方に感心させられた。最後に、自家製ちりめん山椒と勝駒の燗をいただき、大満足。素晴らしい店だ。ご主人の手が空いたところで、番組のことをお話すると、常連さんの中に居酒屋紀行のファンがいると言う。なんとDVDもお買い上げ下さったとか。これは好都合。取材のお願いをすると、恥ずかしがっておられたが、何とか承諾をいただいた。(後は、番組でご覧下さい。取材の当日、ファンの方が来店されたのは言うまでも有りません)
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| これで、取材先は「魚常」と「猩猩」に決めたので居酒屋は終わりにして、バーへ行ってみよう。猩猩からすぐの所に古そうなバーを発見。「ゴールドスター」と看板に有る。中に入ると、カウンター越しにマスターと中年の女性が話し込んでいる。私もカウンターの端に腰を下ろし、まずはジントニックをいただいた。インテリアは古びた感じで、いかにも年代物だ。BGMもレコードのようだ。バーにはまだ早い時間なのだろう、お客さんは誰も来ない。そのうち、女性も席を立った。どうもこれからご出勤のようだ。マスターと二人だけになってしまい、一杯目も飲み干してしまったので、もう一杯ギムレットをお願いした。ちょっと懐かしい味のギムレットをいただきながらBGMの話をお聞きすると、レコードを何枚か見せてもらった。その中に、ジョンコルトレーンの名版、マイフェイバリットシングスがあり、かけてくれると言う。初めて入った店でこんな曲に巡り合えるとは。久しぶりに聞く名演奏に耳を傾けながら、ギムレットを飲み干した。 |
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| ちょっと、寄り道をしたが、金沢のバーの中でも有名な「スプーン」へも行ってみた。このバーは日本バーテンダー協会(NBA)の全国大会で優秀な成績を残しているバーテンダー氏がシェイカーを振っていると聞いていたので是非とも訪れてみたかったのだ。あまり特徴のないドアを開けるとそこには名バーに共通する雰囲気が漂っていた。ちょっと薄暗いが、奥までつながったカウンターとバックバーに並んだ数百ものボトルが壮観だ。平日のせいだろうか、お客さんはまだ少ない。いつもジントニックでは芸が無いので、今日はジンリッキーにしてみた。キリッとした酸味とジンの爽快さが素晴らしい。もうかなり酔っぱらっているのだがすいすいと入って行く。ちょっとハスキーボイスのマスターとしばらくお話をさせていただいた。この店は達磨さんの本を読んで知った事。去年今年と続けてNBAの全国大会で優勝している銀座のオーパのことなどなど。時間のたつのは早いもので、店に来てからもう既に一時間ほどが過ぎていた。もう一杯いつものギムレットをいただき、店を出た。(このギムレットが又、素晴らしい味だったのは言うまでも無い) |
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| 平日の夜、あまり人通りは無い。最後の一軒に「倫敦屋酒場」を覗いて行こう。このバーは以前金沢を取材した時、最後に太田さんと共に立ち寄った。入った途端、太田さんでしょう?とマスターに聞かれた事を憶えている。今回も私の顔を憶えていてくれたようで、お久しぶりですと声を掛けられた。もう遅い時間なのでカウンターには誰もお客さんはいない。(この店はウェイティングバーのようなカウンターと、奥にテーブル席が幾つも有り、イタリアンを提供している)マスターの目の前に座り、又ギムレットをお願いした。ここのマスター戸田宏明さんは大の山口瞳ファンで、山口瞳著「行きつけの店」にも登場する。今回もそんな話をしながら楽しい時間を過ごさせてもらった。もう遅いので帰ろうとすると、本を一冊出してきて、「ちょっと読んでみて下さい。差し上げますので。」と文庫本をいただいた。又山口瞳さんの本かなと思ったら、何とマスターが書いた本だった。ありがたくいただき、ホテルへ向った。 |
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| 次の日、いただいた「世紀の二枚舌」という本を開くと、読者からの質問にマスターが答えると言う形なのだが、ウィットにとんだなかなか面白い本である。笑えるとこ確実。しかし、金沢以外の土地で手に入るかどうか定かでは無い。 |