関連DVD/書籍情報

愉楽の銀座酒場

太田和彦著愉楽の銀座酒場 09年5月発売!! 1,700円(税込み)

太田和彦の日本百名居酒屋

「太田和彦の日本百名居酒屋」DVD 1~3巻 09年4月発売!! 各3,990円(税込み)

 


  6年間続いた「居酒屋紀行シリーズ」で、最南端の地は宮古島だったが、今回はさらに南(西でもある)の石垣島だ。私個人としては、3回目の上陸となる。一番最初は、大学時代だからもう二十数年前。なんと、東京から船で4日かけて到着した。なんとも優雅な時代だった。その次は一昨年、旅チャンネルの番組「しまうた紀行」のロケのときにお邪魔した。その時にも料理の取材をさせていただいた八重山料理の店が大変素晴らしかったので、その店をメインにと考えて、石垣空港に降り立った。

 まずは、オープニングの場所の下見だ。白保海岸へ続く道はほとんど一本道。市街を抜けると、ほとんど車は走っていない。途中の宮良川を渡る橋の上からマングローブの林が見える。マングローブは、沖縄本島にもあるが、この八重山諸島が日本における群生地の代表格だ。白保海岸も良いが、ここのマングローブをオープニングとしよう。いかにも亜熱帯という風情だ。
 白保の集落は多少新しい建物が建ってはいるが、昔のままの石垣と、赤瓦の屋根が残されている。歩いていてとても楽しい。こんな風景が20年目はいたるところにあったのだが、今はここ白保にしか残っていないらしい。石垣島にもリゾート開発の波が押し寄せているためか。少々寂しい気持ちだ。
 白保の集落から国道に出たところに、「白保食堂」がある。何の変哲も無いドライブインのような店だが、八重山ソバやゴーヤチャンプルーが美味しいと評判だ。ちょうど昼時でもあるので、八重山ソバを食べていこう。店内はテーブルが幾つかと、小上がり。普通の食堂だ。メニューを見ると八重山そば小が350円。大でも400円だ。安い!最近あまり食欲がないので、小にしよう。見た目は他の店で食べるソバとなんら変わりは無いが、スープと麺の相性が絶妙。大変美味しい。あっという間にたいらげてしまった。こんなことなら大にすればよかった。せっかく白保まで来るのなら、ここで昼食を食べるシーンを取材させてもらおうかな?と思ったが、今夜回る居酒屋の取材が3軒になってしまったら、30分の番組の中に入らなくなるので、ひとまず引き上げよう。(後述しますが、その夜回った居酒屋で取材をお願いしたのは2軒だけ。結果的には、白保食堂に取材をお願いしました。取材を決めてから、太田さんが昔、映画の撮影のときに毎日のように通っていた店だということをお聞きし、偶然とはいえ驚きでした。後は、番組でご覧ください。)

 ホテルに、チェックインし、再び夕方の街に出発した。時間はまだ4時だ。前述した八重山料理の店の場所を確認するためだ。石垣島で最も飲食店が集まっている繁華街、美崎町の端に「しましん」はあるはずである。5時オープンと記憶しているので、もう仕込みは始まっているだろうと思い店の前に立つと、シャッターが閉まっており、中に人の気配が無い。一瞬定休日か?と不安がよぎったので、電話してみて驚いた。ご主人曰く「去年の12月いっぱいで店を閉めたんですよ。どこか別の場所で再開しようとは思っているですが、まだ場所も決まっていないような状況で。」アチャー!来る前に電話の一本でもしておけばよかった。いまさら悔やんでも仕方が無いが、これは困った。しかし、11月には友人にもこの店のことを教えて、大変感激して帰ってきたというのに。こんなこともあるのか〜。あんなに美味しかったテビチのから揚げ、大谷渡のサラダ、アダンの天ぷらが食べられないとは。残念でならない。他の店を探さなければ。

 まだ5時前なので、美崎町の店はどこも準備中だ。沖縄の大衆食堂やソバ屋を紹介している本に出ていた「マルハ鮮魚」に行って見よう。離島桟橋の目の前にある魚屋さんだそうで、港に出入りする船を見ながら飲めるのだという。魚屋さんだから昼間から営業していて当たり前。離島桟橋では、八重山諸島の島々へひっきりなしに船が出て行く。その直ぐ横にテントが見えてきた。鮮魚店の前にテントを張り、中にプラスティックの椅子とテーブルが数脚あるだけだ。ここで、本当に酒が飲めるのだろうか?迷っていても仕方が無いので、お姉さんに「ここで飲めるのですか?」と聞いてみた。すると、「どうぞ、何飲みます?」と気持ちの良い答えが返ってきた。海からの風が少し冷たいが、オリオンビールの生と、マグロの中落ちをいただいた。さすがに鮮魚店だけあって刺身は美味しい。そして、港を眺めながらのビールが最高である。これが夏の暑いときに冷え冷えの生ビールだったらもっと良かっただろう。テントの中は私一人だけ。離島桟橋へ着く船から降り立った人々が私の前を横切りながら、みんな覗いて行く。ちょっとした優越感だ。いかにも南の島の飲み屋という風情でここが第一候補だなと思いつつ、二杯目のビールをいただいた。

 まだ日は高いのだが、時計は夕方五時を回った。いよいよ居酒屋のオープン時間だ。とは言っても、当てはない。美崎町の店は、前回2軒ほど入ったのだが、あまり良い印象は無い。そこで、市場の裏にある、古そうなおでん屋「モリ」に入ってみた。入り口を入るといくつかのテーブルが並び、一番奥に数人座れるカウンターがある。カウンターの中には美味しそうなおでんを入れた鍋が鎮座していた。早速、テビチと地元の泡盛「八重泉」をいただいた。石垣島には六つの泡盛の蔵があるが、最も出荷量が多いのが「八重泉」だそうだ。さておでんのテビチだ。かなり色の濃い出汁で煮込まれてはいたが、味はそんなに濃くない。大変美味しいテビチだ。店にはまだ客は誰もいないので、お母さんに店の歴史を聞いてみた。すると、もう40年も営業しているという。カウンターの中で働いているのは息子さんだそうだ。十何年か前に建てなおして、ビルにしたそうだが、昔の面影が少しでも残っていたら、良かったのに。

 少し市場の裏を歩いて、繁華街から抜けた辺りに古そうな平屋建ての居酒屋が有った。その名も「八重山」。外から見る外観は大変良い感じで、迷わず入ってみた。右側のカウンターは常連客でほぼ満員。左側の小上がりには誰もいないので、そこに一人で胡坐をかいた。何の銘柄か忘れたが、泡盛のロックと、ゴーヤスライスをお願いした。すると女将さんが「お一人ならカウンターが良かったのにね。今日は常連さんたちがいっぱいでごめんなさいね。空いたら向うへどうぞ。」と声をかけてくれた。カウンターに陣取った常連さんたちは、地元の漁師のような人や、サラリーマンのような若者まで様々だが、みんな気心が知れあった仲間なのだろう、和気藹々と笑い声を上げながら雑談している。なんともうらやましい。あのカウンターに座れたらさぞ楽しかっただろう。ゴーやのスライスをお願いしたのだが、皿の上に大盛りになって出てきた。珍しいことに、ゴマダレを付けて食べる。これがなかなか美味しい。更に、カウンターがいっぱいでごめんなさいねと、カツオとタコの刺身をサービスしていただいた。これも大変美味しい。しばらく、ゴーヤのスライスと格闘していたのだが(あまりに量が多いので)、カウンターの常連さんたちはいっこうに帰ろうとしない。後からも常連さんらしきお客さんが来て、奥の小上がりに座って飲んでいる。ちょっと寂しそうだ。仕方が無い、今日のところは次の店へ向かおう。石垣島の地元の呑み助が集まる店の片隅で飲めたことに、感謝だ。

 その後、二軒居酒屋を回ってみたのだが、一軒はちょっと大きめな店で、カウンターで飲んでいるのに、なぜか寂しい店。もう一軒はカウンターだけの小さいおでん屋だが、ほとんどしゃべらないママさんが高圧的で、直ぐに店を出た。

  さあ、困った。闇雲に店を探しても時間の無駄なので、ちょっと遠いが、紹介された店に行ってみよう。その店は視聴者の方からの情報で、地図を見るとかなり歩きそうな距離だ。美崎町から歩いて15分ほど。やっと店の明かりが見えてきた。「森の賢者」と言う店名は、フクロウのことだが、内地から移り住んだ方の店らしいネーミングだ。店内もおしゃれな作りで、丸いカウンターと椅子席が幾つかある。カウンターの先客はカップル。その脇に一人で座った。まずはオリオンの生ビールだ。それと、料理はとメニューを見ると、分からないものが多い。いわゆる沖縄料理というものより、創作料理のようなものが目に付く。悩んだ挙句に石垣牛と大根の煮物をお願いした。これは美味しい。良く煮込まれた石垣牛は脂が抜けてとてもやわらかい。そして、牛の旨みを吸った大根の美味しいこと。もう既に、この店にお願いしようと決めていた。更に、日本酒の揃えもなかなかで、石垣島でこれだけの日本酒をそろえている店はまず無いだろう。聞くと、ご主人の好きな日本酒を置いているらしい。やはり本土出身者は日本酒から離れられないようだ。カウンターの上に並んだビンは薬草や果実を泡盛で漬け込んだものだそうだ。一つお勧めをもらってみた。長寿草を数年漬け込んだと言うその酒は、とても薬草の味とは思えない深く複雑な味で、なんとも病みつきになりそうな美味しさ。そろそろ、酔いも回ってきて、大変良い心地になってきた。隣のカップルもかなり飲んでいるのだろう饒舌だ。なんとなく会話していると、本土からの観光客だと言う。リゾートホテルに泊っているのだが、わざわざタクシーを飛ばしてこの店まで来たそうだ。ホテルのレストランよりここの料理と酒のほうが数段良いと断言していた。(後日、電話で取材のお願いをすると、太田さんの大ファンで居酒屋大全をバイブルのように大事にしているとおっしゃっていた。後は番組でご覧ください。)

 良い店が見つかって一安心。最後のバーへ向かった。石垣島のガイドに本格的なカクテルが楽しめる店として紹介されていた「TOO BOY」だ。美崎町の中ほど。ビルの二階にあるのだが、なんとも怪しい階段を登らなければならない。店内はカウンターと広めのボックス席が幾つか。沖縄のバーにしてはまだ早い時間なのだろう。客は誰もいない。カウンターの真ん中に腰を下ろし、ジントニックをお願いした。若いバーテンダーだが、手捌きはしっかりしている。味も良い。お通しにガーリックトーストが出るのも有難い。やはり、洋酒には沖縄料理より、洋風なものが合うようだ。バーにしてはちょっと広いので、この店の前はクラブでも営業していたのだろう。ボックス席には美人のホステスが似合いそうだ。

 もう一軒、前回来たときに寄ったバーへ顔を出していこう。市場の路地を入ったところにあるバー「すけあくろう」である。ドアを開け、半地下への階段を下りると、カウンターがある。圧巻なのはバックバーを埋めたCDだ。そのほとんどがジャズで、オーナーの趣味だそうだ。店は、若い女性が切り盛りしているのであまり難しいカクテルは出来ないが、泡盛はかなりの種類が置いてある。飲んだことの無い泡盛を飲んでみよう。名前に惹かれて白百合をロックでもらった。最近東京でも泡盛を飲む機会が多いが、この白百合は強烈だ。名前とは裏腹に、凄みがある。昔の泡盛に遭遇した感じだった。壁にジャズライブのポスターが貼ってあったので、ライブもやるの?と聞いてみた。すると、カウンターと反対側のドアを開けて隠し部屋のようなスタジオを見せてくれた。なんと、更に地下に降りたところに立派な部屋があるではないか。ドラムセットが真ん中に鎮座し、立派なライブハウスだ。石垣島は奥が深い。こんなところに隠しスタジオがあるとは。

 石垣島でメインと考えていた「しましん」は休業中で紹介できないのが残念だが、なかなか良い店にめぐり合った。まだまだ良い店が沢山ありそうだ。これから何回も石垣島へ足を運ばなければ、その良さは分からないかもしれない。そんな思いが胸に残った今回の旅だった。

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