関連DVD/書籍情報

愉楽の銀座酒場

太田和彦著愉楽の銀座酒場 09年5月発売!! 1,700円(税込み)

太田和彦の日本百名居酒屋

「太田和彦の日本百名居酒屋」DVD 1~3巻 09年4月発売!! 各3,990円(税込み)

 


  静岡県は、本シリーズではずいぶん沢山取り上げている。東から、沼津、清水、静岡、焼津と4回取材にお邪魔した。静岡には銘酒も美味しい魚もそろっているので、飲んでいても楽しいと言う事もあるのだが。そして、今回は西の端、浜松へ行くことにした。私は、浜松で飲むのは二回目。前回はもう4〜5年前になるだろうか、知り合いが住んでいるので訪ねてみたのだ。その時の記憶を頼りに回ってみた。

 まずは、浜松と言えばウナギと言う事で、老舗の鰻屋「あつみ」に向かった。まだ、12時前だったのですんなりテーブル席に通された。メニューを見てちょっと驚いた。最低でもうな丼の2000円。東京でいつも出前を取るうな重はなんと980円。その鰻がめちゃくちゃ安い(あまり美味しくない)のだが、2000円などと言ううな丼はあまり食べたことが無い。どうも貧乏性だ。しかし、ここは浜松、周りの客がみんな注文しているうな重2500円にしてみよう。これでも、うな重の中では一番安いのだが。うな丼が届く間に店の中を見回すと、小林克代さんのサインがあるではないか。そこに、「こんなに美味しい鰻を食べたのは初めて。」とある。あの料理研究家がそこまで言うのだからかなり期待できる。お世辞かもしれないが。しかし、出てきたうな重を食べて驚いた。本当に美味しい。以前、東京の飯倉交差点近くの、天然物しか扱わないと言う超高級鰻屋で一度だけ食べたことがあるが、その味に引けを取らない。いや、それよりも美味しいかもしれない。ふんわりと脂が乗っていて、それでいてくどくない。炭火でじっくりと焼かれた(それだけ時間が掛かったが)皮は、サクッと香ばしく、たれも絶妙。これで2500円は安いのではないだろうか?散策の前の腹ごしらえにちょうど良い。取材をお願いしよう。(後は番組でご覧ください。取材当日ご主人から聞いたのだが、グルメ番組の取材が多いそうだ。あの、元祖でぶやも取材に来ていた。)
 腹ごしらえも済んだので、浜松城に散策へ行ってみよう。繁華街からはちょっと歩くが、時間もあるので、ちょうど良い腹ごなしだ。徳川家康の出世城と別名が付いているぐらいなので、さぞかし大きい城かと思いきや、コンクリートで建て直された小さい地味な城だった。ちょっと拍子抜けである。しかし、城内には徳川家康の銅像が建てられていた。この番組では、太田さんが銅像趣味なこともあり、多くの銅像を回っている。西郷隆盛から始まり、平清盛、板垣退助、坂本竜馬まで、さまざまな銅像が登場したが、徳川家康は始めてである。と言うか、徳川家康の銅像って他にどこにあるのだろう?静岡や岡崎などにあると聞いていたが、江戸城を開いた武将なのだから、東京にあっても良いはずだが、見たことも聞いたことも無い。あまり、江戸(東京)の市民には愛されていなかったのかな。寂しい話だ。

 夕方のいい時間になってきた。お目当ての店の開店時間にはまだ早いので、繁華街を散歩してみた。駅前のバラックのような店の並んでいた飲み屋街は、再開発されビルになってしまったが、イトーヨーカドーの裏辺り、千歳町の飲み屋街はいまだに健在。少し歩いてみたが、スナック系の店が多いようだ。まだどこも開いていない。前回来た時に見つけた古い店を思い出し、五社神社前の大通りに行って見たが、建て直され影も形も無い。「万菊」と言うその店は、何年営業しているのか分からなくらい古く、カウンターは常連さんだけで、とても気軽に入れるような店ではなかったが、良くしてもらった覚えがある。残念だ。
まだ時間が早いので、肴町周辺を歩いてみた。新しい店が多いが、幾つもの居酒屋やバーが立ち並んでいる。その中の一軒、「出世」に入ってみた。入り口脇に貼ってある日本酒のラベルに惹かれたのだ。静岡の地酒が沢山そろっている。まだ、開店間もないのだろう、お客は私一人。仕組みの最中のようだ。カウンターの真ん中に座り、初亀をお願いした。それにあわせて、カワハギの刺身だ。当然肝付き。ちょっと小ぶりだが、なかなか美味しい。肝もトロっとして旨みが口の中に広がる。静岡の酒、初亀もコクがあって大変美味しい。一息つき、店内を見回すと、かなり広い店だ。カウンターには20人ほど座れるだろう。さらに、テーブル席が幾つもある。しかし、もうそろそろ6時だと言うのにまだ客は入ってこない。一人では手持ち無沙汰だが、カウンターの中と話もできず、ご主人らしき人もいない。酒と肴は良いのだが、ちょっと寂しい。居心地があまりよくないのだ。これで、大勢の客に囲まれて一人で飲むのならその喧騒がBGMになって落ち着くのだろうが。もう少し遅い時間なら良かったのかも知れないな、と思いつつ目当ての店に向かった。

 前回飲み歩いたときに、浜松編をやるときには絶対取材させてもらおうと決めていた店で、「貴田乃瀬」と言う。肴町から道を隔てて、周りにはほとんど飲食店の無い所に一軒ぽつんとある。なんで、こんな離れた所にある店に入ったかと言うと、インターネットのホームページを偶然開いたからだ。ご主人の酒と肴に対する情熱がひしひしと伝わってくる内容だった。後にも先にもあんなに凄いホームページ(個人の居酒屋で)にお目にかかったことはない。暫らくぶりの訪問であったが、店の雰囲気はまったく変わらない。前回来たときは初めてだったので、注文の仕方に戸惑ったが、今回はそんなことはない。いの一番にしめさばを頼んだ。そして、ご主人に日本酒を選んでもらう。選ばれた酒は奥播磨。この店は、自分で日本酒を選んでも良いが、メニューが無いので、相当の常連で無いと、どんな酒があるのか把握して頼むことは難しいだろう。何せ、60種類もあると言うのだから。奥播磨は、何回か飲んでいるが、今日の酒は特に美味しいような気がする。それもそのはず、しめさばとの相性が抜群なのだ。そのしめさばは驚くほど脂が乗っていて、とても普通の鯖とは思えない。九州の五島列島の鯖だそうだが、こんなにこってりとした鯖は食べたことが無い。鯖は刺身も好きなのだが、これだけ脂が乗っていたのでは酢で〆なければとても食べられないだろう。しかし、〆方も絶妙で、決して酢の味が強くない。日本一と言っても過言ではない。寡黙なご主人は、大げさに自慢することは無いが、しっかりした自信にあふれている。ご主人と客である私が、カウンターを挟んで一対一の形だったので、気安く話せるような状況ではなかったが、もう一人お客さんが現れた。地元の方らしく、気軽に話しかけている。私もこれ幸いと、一度むかし来たことや、太田さんの「居酒屋味酒覧」に掲載されたことなどを話題にした。すると、頑固そうなご主人は意外に饒舌で、どこから来たのかと聞いてくれた。埼玉ですと答えると、次の日本酒に埼玉の酒、琵琶のさざなみを出してくれた。暫らく三人で談笑し、もうそろそろと言う時間になったとき、カマンベールチーズの西京漬けと泡盛の古酒が出された。それは沖縄でいただく、豆腐ようのようで、まことに古酒にあっていた。直ぐに席を立つわけにもいかず、暫らくその味を堪能させていただいた。かなり長居をしてしまったが、最後に取材の件を快諾していただき、店を後にした。(後は、番組をご覧ください。)

 目当ての店が順調に行ったので、後はもう一軒バーを探せばいい。気が楽になった。太田さんの著書に登場するバーに足を向けたが、まだ居酒屋を回る時間があるので、面白そうな店に入ってみよう。派手な看板に、生け簀の文字。どう見てもバラックみたいな店だが、店内は看板の文字通り生け簀だらけだ。メニューを見ると、刺身が何でも安い。イセエビの刺身がなんと980円。ビールとイセエビを頼み、店内に目をやると、意外に空いている。これだけ新鮮な魚がこんなに安く食べられるなら、もっと混んでもよさそうだが。後でその理由が分かった。出てくるのが遅いのだ。ビールはさすがに早いのだが、そのあとの刺身が待てど暮らせど出てこない。さらに、安いだけあって小さいイセエビであった。こんなに小さいのは獲ってはいけないのではなかろうかと思うぐらい小さい。なので、美味しいのだが、刺身も3切れぐらいしかない。ちょっと拍子抜けだ。最後に出てきた、イセエビの味噌汁は美味しかったが。

 気を取り直してバーに向かった。まずは「街の灯」。チャップリンの映画の題名から取ったのだろう。しかし、住所のところに店は無い。仕方が無いので電話すると、親切に教えてくれた。新しい店に移ったようだ。移ったと言っても直ぐ近くだった。階段を上がり、店に入ると意外に天井が高く、黒を基調にしたインテリアで落ち着いた空間だ。L字型のカウンターの中にはマスターが一人。お手伝いをしている女性も一人いるようだ。早速、ジントニックをお願いすると、「さっき電話された方ですか?」と話しかけてくださった。お客さんはまばらだが、それぞれに連れの客が一緒で、一人でぽつんと飲んでいるのは私だけだ。カウンターの反対側にはめ込まれた、窓のガラス越しに見える外の景色が美しく、話す相手のいない私は、そちらへ目を向けた。ボーっと外を眺めていると、不思議と落ち着く。酔いが回ってきたせいかもしれない。マスターと二言三言お話させていただいたが、何の話をしたのか覚えていない。もう一杯、確かジントニックを飲んだと思うのだが。

  最後に、もう一軒、以前一度入ったバーに行ってみよう。遠州鉄道の第一通り駅の直ぐ脇にある「テイル・オブ・クック」だ。私の記憶が正しければ、カクテルの語源だ。交差点の角にある店で、ドアは角の方向を向いている。店内はカウンター8席の小さな店で、以前尋ねたときも連れと二人だけだったが、今日も私一人だ。毎度のことだが、ギムレットを作っていただき、ゆっくりと味を楽しんだ。マスターは、NBA(日本バーテンダー協会)浜松支部の副支部長を努めていると言うことで、ボトルを扱う手捌きや、シェイクの仕方がビシッと決まっている。さらに、客と話をしているときや、オーダーを待っているときの姿も背筋をまっすぐ伸ばし、姿勢が素晴らしい。白のタキシードは良く目にするが、黒のタキシードを着こなすバーテンダーも珍しいだろう。客が他にいなかったのが幸いし、マスターといろんな話をさせていただいた。小さいがこじんまりとしていて、大変落ち着くバーだ。なんにしても、カクテルの味が最高だ。この店にお願いしよう。(後は、番組でご覧ください。)

 まだ、時間は早いのだが、5軒はしごして、だいぶ酔いがまわってきた。もうホテルに帰って、寝たほうがよさそうだ。しかし、ホテルは見えているのだが、真っ直ぐにたどり着けない。浜松の駅前は整備されて近代都市に変身したが車優先で、人間はちょっと歩くと直ぐに地下道に誘導される。道が広いのは良いのだが、横断歩道は少なく、横断地下道が多いのだ。これではお年寄りや車椅子の方々は大変だろう。もう少し人に優しい街づくりは出来なかったのかと思うのだが、そんなことを思うのは年を取ったせいだろうか?

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