関連DVD/書籍情報

愉楽の銀座酒場

太田和彦著愉楽の銀座酒場 09年5月発売!! 1,700円(税込み)

太田和彦の日本百名居酒屋

「太田和彦の日本百名居酒屋」DVD 1~3巻 09年4月発売!! 各3,990円(税込み)

 


 12月29日、今年最後の放送だ。それに向けてロケをするのだが、師走の忙しいときに地方の町へ出かけるのも気が引けるので、久しぶりに東京で居酒屋巡りをすることにした。

 なぜ今まで取材しなかったのだろうと自分でも不思議だった浅草だ。浅草には当然古い酒場が多いが、最近出来た新鋭の店も多いと聞いていた。私も何軒かは行ったことがあり、まずはその辺からロケハンだ。
 最初に向かったのは「松風」。浅草を代表する居酒屋で、お燗番の方が発する独特の声が印象的だ。肴の種類はあまり多くなく、どれも酒の当てとして提供されるものなので、本当に日本酒を目的に来なければ楽しめない店だ。しかし、あまりにも有名なため、今さら居酒屋紀行で取り上げることも無いだろうと、直ぐに次の店に向かった。

 浅草は浅草寺(地元の方々は観音様とも呼ぶ)前の飲み屋街と観音裏と言う浅草寺裏の言問い通りを渡った辺りの飲み屋街に大きく二つ分かれている。その観音裏に目的の店はあるのだが、その途中一軒バーに寄ってみよう。浅草ビューホテルの横にある「バーリー」だ。最近では珍しくなった一軒家で、外から見ると一階と二階につながって店があるようだ。店内はカウンターのみの小さな空間。先客が二組。カウンターの両端にそれぞれ座っているので、私一人が真ん中の席に着く事になった。マスターは一人、先客のカクテルを作っている。待つ事しばし。先客四人のカクテルを作り終えてやっと順番が回ってきた。ギムレットをお願いすると、なんとなく目つきが変わった。まだ早い時間に一杯目にギムレットを頼むような客は同業者か?と疑われたのだろう。手馴れた動きで、鮮やかにギムレットが出来上がった。味は確かなものだ。さすがである。浅草ではかなりの老舗と聞いていたので、堅苦しいかな?と思っていたが、なかなかフランクで良い店だった。
 今日のお目当ての店は、6時開店。それにあわせて観音裏に向かった。「もがみや」の暖簾は既に上がり、お客さんも何人か入っている。ドアからちょっと覗き「一人ですが入れますか?」と聞くと、「今日は予約でいっぱいなんです。」とつれない返事が返ってきた。どうりで、カウンターとテーブルの全部に箸が並んでいるわけだ。仕方ないので浅草寺の方向へ戻りかけたところ、「百作」と言う店を発見。店の前には、骨董品のようなガラクタのような品々が並べられ、独特の雰囲気だ。店内もビルの一階とは思えない、古い農家を思い起こさせるような内装だ。お客さんは奥に一組いるだけで、閑散としている。カウンターの手前に腰を下ろし、燗酒と小柱のかき揚げお願いした。日本酒は有名な酒もあるが知らない酒もある。かなりマニアックだ。その中から広島の酒を燗にしてもらった。辛すぎる酒より多少甘い酒が好きなので。仲居さんであろう女性が徳利をおいてくれた。すると、お湯で満たされたカウンターに掘られた穴に入れるのだという。自分で燗を付けるのだ。どこかの店でも見たが、これはなかなか面白い。さめなくて良い。その後、ばくだん(イカ納豆みたいなもので、他の魚も入っている)と、滋賀県の酒をもらい、暫らく息子さんと話した。以前は一戸建てだったが、ビルを建てるので、内装は出来るだけ残したそうだ。お父さんがご主人のようだが、昼間仕事を持っている息子さんがほとんど営業していることなど。ここで生まれ育った息子さんが、この店を専業にすればもっと繁盛店になるだろうが、それにはもう少し時間がかかるだろう。

 「百作」を出て、「もがみや」をもう一度覗いたが、まだ満員だ。今日は諦めてバーを回ってみよう。隅田川の河畔にある「ドラス」だ。店内には先客が3人。地元の方と思われる熟年(老人といっても良い年だが)の3人がカウンターで飲んでいた。それも一人は女性だ。こんなしゃれた店で飲めるとは、さすがに江戸っ子だ。おしゃれと言うよりは、シックなのだが、開店してまだ一年も経っていないと言う。マスターは一人で、カウンターの客の話に合わせている。ギムレットとザクロジュース入りのダイキリをいただいたが、すっきりとした切れ味の鋭いカクテルだった。先客が帰り、ゆっくりとマスターと話し込んだ。ご両親はこの辺りに多い靴の卸売りを営んでおり、マスターはシュートボクシングの選手で、全国大会にも出るような実力者だとか。まだまだ若い店だが、地元の方々に愛されてどんどん成長するように感じた。

 最後に、ちょっと遠いが合羽橋に近い「サムシング」に行ってみよう。ジャズバーと聞いていたので、一度は是非行って見たいと思っていた。浅草と合羽橋の間はホテル街で、遅い時間に男一人で歩いているのは、かなり恥ずかしいので、知らずの内に足早になる。スナックと間違えそうなドアを開けると、カウンターだけの、真に潔い空間が広がった。装飾を廃し、ジャズバーとはこうあるべきといった雰囲気だ。一番奥の席に着くと、その奥にはLPレコードのジャケットが一つスポットライトを浴びていた。ここでもギムレットをいただき、しばしジャズを鑑賞。物静かなマスターは、黙ってグラスを拭いている。私の質問に的確に答えてくれるが、余計なことは話さない。渋い!私もこんな渋いマスターになりたいものだ。この日は他にお客さんはいなかったが、10人ほど座れるカウンターが満員になってもこの雰囲気は壊れないだろう。お客さんの方もこの雰囲気に浸って酒を飲むことを覚えて欲しいものだ。今日はこれで終了。浅草は近いから、日を改めて出直そう。

 浅草ロケハン二日目。今日も、まず前から知っている店に行ってみよう。観音裏の「ぬる燗」だ。太田さんが以前から注目している店で、私も最初に入ったときから良い店だと実感していた。居酒屋に良くある赤提灯では無く、白い提灯がお出迎え。店内はカウンターが4席ぐらいと小上がりが三つ。夫婦で営業されているので、これくらいがちょうど良いのだろう。まずエビスの小瓶をもらい、喉を潤した。お通しはアオダイの昆布締めだ。秋刀魚のヌタと長いもの山椒焼きをお願いし、酒は悦凱人の吟醸燗だ。なんとも嬉しいではないか。こういった酒の肴と素晴らしい燗酒を気軽に楽しめるのだ。まだ客は居ないので、早速取材のお願いを切り出した。前から太田さんも私もよく知っているので、あっさり快諾いただいた。せっかくなので、もう一本。今度は開運のひやおろしだ。いつにもまして美味しい。さすがに開運だ。いつ飲んでも安心できる。これで、やっと一軒決まってほっとした。店を出るときに、ご主人の良く行くバーを聞いてみた。すると、「FOSと言う新しいバーですが、良い店ですよ。」と教えてくれた。(後は番組でお楽しみください。)

 次に、「ぬる燗」の直ぐ近く、言問い通り沿いにある「さくま」に入った。この辺りでは最も古い店と聞いていたのだ。引き戸を開けると鍵の手のカウンター。そのカウンターの上には煮物などのお惣菜が大皿に盛られて並んでいる。みんな美味しそうだ。どれにしようか悩んでいると、「ちょっとづつ盛りましょうか?」と嬉しい答え。ビンビールを一本お願いし、これもカウンターの上で美味しそうな匂いをさせている、すじの煮込みをいただいた。「この店は古いのですか?」と聞いてみると、「戦後直ぐかららしいよ。」と、カウンターの中のおかあさん(お母さんという年だと思います。失礼かな?)が応えてくれた。この店は、そんなおかあさんの暖かさを求めて、サラリーマンのおじさんたちが集まるのだろう。見る見るうちにカウンターがうまってきた。椎茸や筍の煮物はおふくろの味だ。こんな店が近くにあったら毎日でも通って、一本酒を飲んで、最後にご飯でももらいたい気分になるだろう。

 もう一軒、先日「ドラス」行った時に見つけた古そうな店があるので行ってみよう。言問い通りと馬車通りの交差点の角にあるその店は、なんと名前を「下町」と言う。外見も古いが店内も相当古い。奥の小上がりにはサラリーマンが二人、カウンターには地元の方と思われる一人客が座っている。私もカウンターの隅に座りビールをお願いした。手書きのメニューを見ると、生の魚が多いので、季節はもう終わりだが、秋刀魚刺しを頼んだ。ビールを飲みながら肴を待っていると、カウンターの中でご主人が秋刀魚をおろしている。値段も良いのだが量も凄い。丸々一匹大型の秋刀魚の刺身が出てきた。女将さんの言うとおり鮮度が良く美味しいのだが、こんなにたくさんではちょっと飽きる。酒飲みは贅沢なもので、ちょこっとの量のつまみを種類多く食べたいのだ。そのほうが酒が進むのと思うのだが。

 まだ時間も早いので、もう一軒居酒屋に行ってみよう。観音裏でかなり有名な「一文」だ。以前にも行ったことがあるのだが、もう一度見てみたい。古い民家を改装したような建物で、玄関を入ると土間で、色々な形のテーブルと、カウンターがある。客は、先に金を払って、木札をもらう。注文した品が届くと、金額にあわせた木札を持っていくという仕組みだ。いつも満員なのだが、この日も例外では無く、テーブルは全て満員。かろうじてカウンターの隅が開いていた。そこに座り、まず木札を買う。そして、田酒の燗とカワハギの肝和えを頼んだ。以前は、カウンターに燗付け用のお湯が沸かしてあったのだが、今は使っていないようだ。田酒のどっしりした燗に、こってりした肝和えが良く合う。古びた木のぬくもりを感じながらゆっくりと酒を味わいたい雰囲気だが、次から次へと客が入ったり出たりを繰り返している。入口近くのカウンターに座ったため、ちょっと落ち着かない。残念だ。概して繁盛店というものはこういったもの。繁盛と言うことも良かれ悪しかれなのだなと実感した。

 その後、バーを二軒。「ぬる燗」で教えていただいた、「FOS」とそのバーで教えていただいた「オグラ イズ バー」。二軒とも小さいが落ち着いた、とても良いバーだった。「FOS」のマスターはまだ若いのに「バーリー」と赤坂の「木陰」(開高健さん行きつけのバー)で働いていた経験を持つという兵。「オグラ イズ バー」のマスターは、洋酒博物館のような浅草の老舗バー「ねも」で働いていたと言う。浅草のバーはみんな関係が深いのだと教えられた。

 ロケハン三日目。もう一軒取材を受けてくれる店を探してふたたび浅草の観音裏まで出かけた。カウンター割烹のような作りの店「三豊」に入ってみた。白木のカウンターが美しく、奥には座敷があるようだ。若手のご夫婦が立っているが古そうな店で、いい雰囲気で古びている。まず生ビールをいただき、肴はお勧めでカツオをいただいた。聞くと40年以上続いている店で、ご主人は二代目。今日は休んでいるが、大女将は健在で、毎日着物で店に立つそうだ。今は景気が悪く、お客もあまり来ないが、その昔は芸子さんを連れた旦那衆で賑わったと聞いた。ご主人のお婆様は本当の芸者で、それはそれは美人だったらしい。そんな話を聞きながら飲む酒はまた格別。ここは奮発してふぐの白子をいただこう。酒も燗に変えて。徳利には袴が付いて来た。さすがは昔ながらの店。江戸の雰囲気を残している。まだまだ若い二代目ご主人の頑張りに期待したい良い店だった。

 せっかく観音裏まで来たのだから、この前入れなかった「もがみや」に行ってみよう。まだ早い時間なので、カウンターに客が一人。私もカウンターに座わらせていただいたが、テーブル席は今日も予約で満員だった。相当の人気店だ。その理由は刺身にあった。三点盛りをお願いしたのだが、大変美味しい。そして量もある。マグロに赤貝、そしてアジがのる盛り付けは見た目にも美しく、これなら人気店になるのも頷ける。燗酒をお願いすると、酒は鷹勇。燗付け機での燗は、手間隙かからないのは便利だが、見ていてちょっと味気ない。出来れば、湯煎で燗つけてもらいたいものだ。冷酒は良い物が揃っている。メニューを見ると、飲んでみたいものばかりだ。しかし、冬の寒いときに冷たい酒では、体が冷えてしまう。今度はぜひ夏に来よう。

ちょっと離れてはいるが、もう一軒、吉田類さんがテレビで紹介していた店「山之宿」にも行って見た。ビルの谷間に古い一軒家があり、そこを改装して店にしている。玄関を入ると、右手がカウンターと厨房。左手の小上がりでは宴会をやっていた。その喧騒を聞きながらカウンターに着くと、美人のお嬢さんが注文を取りにやってきた。ここでも燗酒を頼み、肴はえびしんじょうにしよう。酒は新政。これが、えびしんじょうととても良くあう。カウンター越しに(カウンターの上のネタケースが高いので良くご主人の顔は見えないが)ご主人に聞くと、建物は50年以上前の物で、居酒屋としては35年。二代目だそうだ。根っからの江戸っ子で、三社祭に命をかけていると話していた。古い民家を改装してうまく使っているのだが、一人で飲んでいるのがちょっと寂しい。何度も通い詰めて、三社祭の常連にでもなれば良いのだろうが、新参者には少々敷居が高い。今度は、三社祭りの時に来てみよう。営業していればだが。

 もう三軒目なので、酔いが回ってきた。しかし、もう一軒ぐらいと思い歩いていると、浅草駅の近くで「志ぶや」(ぶの字は難しい字なので、書けません)を発見。前は何度も歩いていると思うのだが、今まで気がつかなかった。店内はいかにも江戸っ子が好きそうなきりっとした作り。カウンターと幾つかの小上がりだ。その小上がりが高い。椅子と同じくらいの高さがある。そこそこ込んでいるので、居酒屋特有のざわめきと、ご主人や女将さんの威勢の良い声が飛び交っている。カウンターに座ると目の前に日本酒の一升瓶が並んでいるではないか。中身は入っていないが、この種類があるということだろう。その揃えもなかなか優れている。神亀酒造の真穂人がある。これを燗してくださいと頼むと、すぐさま厨房で湯煎してくれた。つまみは、備長炭で焼くカキ焼きだ。このときは女将さんが焼いてくれたが、いつもは息子さんの仕事らしい。この店は後で聞いたのだが、ご主人夫婦と息子夫婦、お手伝い一人の5人で切り盛りしている。二階に住んでいるので、たまにお孫さんが降りてきて、愛嬌を振りまいているのがとても微笑ましい。酒も肴も大変美味しく、偶然入ったのに直ぐ気に入ってしまった。これは是非番組で紹介したい。しかし、今日は忙しそうなので、また今度にしようと思い、最後になす焼きを食べて店を後にした。

 次の日、早速「志ぶや」へ向かった。開店早々のまだ空いている時間に取材交渉だ。最初ご主人は、「いやー、うちなんか。」と照れていたが、「息子が良ければ構わないよ。」と言ってくれた。息子さんは、若いせいもあり快諾してくれた。せっかくなので、ふたたび真穂人を呑み、かきわさをいただいた。初めての経験。生牡蠣を山葵醤油で食べるのだが、とても美味しい。偶然とはいえ良い店にめぐり合ったものだ。これで安心して年を越せると言うものだ。(後は番組でご覧ください)

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