関連DVD/書籍情報

愉楽の銀座酒場

太田和彦著愉楽の銀座酒場 09年5月発売!! 1,700円(税込み)

太田和彦の日本百名居酒屋

「太田和彦の日本百名居酒屋」DVD 1~3巻 09年4月発売!! 各3,990円(税込み)

 


 稚内から利尻島へフェリーで移動。夏だと言うのに風が強く寒い。やはり最北端の地だ。稚内から2時間弱。天気が良く、利尻富士がはっきり見える。これは幸先が良い。話に聞いたところでは、綺麗に山のピークが見えることは珍しいという。

 フェリー乗り場でレンタカーを借り、島内一周のドライブに出た。車なら小一時間もあれば一周できてしまう小さい島だ。姫沼からの眺め、海岸線の荒々しい波、原生の草原に咲くかわいい花などを堪能し、一度宿に戻った。宿といっても民宿で、登山客が大半を占めるという素泊まりの宿だ。夏のこの時期、利尻、礼文島は大変な観光客で賑わう。6,7,8月で一年分の観光客を受け入れているようだ。その分宿泊も込み合い、そして値段も高い。ピーク時は通常期の2倍以上の値段だ。宿が取れただけでもラッキーだった。
 宿に荷物を置き、早速居酒屋のロケハンに、街中を歩いてみた。鴛泊港栄町が一番大きな町と聞いていたのだが、歩いて30分、町全体を回れてしまう。居酒屋らしき店が二〜三軒。スナックが三〜四軒。食堂が四〜五軒。これで全部だった。まだ飲み屋が始まるには時間が有るので、また車に乗って町営温泉へ出かけてみた。最近出来た施設らしく、まだ新しい。湯船も広く、露天風呂もついている。久しぶりにゆっくり温泉を楽しんだ。

 さあ、居酒屋探索に出発。その前に宿の女将さんにお勧めの居酒屋を聞いてみた。(とは言っても選べはしないのだが。)すると、「力丸がお勧めだよ。量も多くて良心的だよ。」との返事。「力丸」とは、街の端にあるいかにも居酒屋風の店だ。それではそこから行ってみよう。店の前に着いたのが5時30分。店はまだ開いていない。しかし、準備は始まっているようで、中には明かりがついていた。ぶらぶらと店の周りを回った見たが、観光客も住民もほとんど歩いていない。観光のピークだと言うのに、みんなどこへ行ったのだろう?やはりホテルのレストランで食事をするのだろうか?街中の居酒屋で地元のオヤジさんの話を聞きながら一杯やるのが楽しみな私にはちょっと考えられない。街中にこそ旅の醍醐味があるのに。などと考えているといつの間にか暖簾が架かっていた。口開けの客だと思って店に入ると、なぜか先客がカウンターに一人。生ビールをあおっていた。私もカウンターの反対側に陣取り生ビールだ。カウンターの中は広めの厨房で、カウンターの上にはネタケース。後には小上がりが幾つか並び、ちょっとした宴会も出来そうだ。メニューをのぞくと、刺身盛り合わせ1500円とある。それをお願いして男山の燗酒も追加。ご主人は無口だが、きびきびと料理をこなしていく。刺身があがった。ボタンえび、ほっき貝、つぶ貝、ソイがのった豪勢なもの。ソイが美味しい。脂が乗ってハタのような食感だ。続いてつぶ貝。アワビより美味しいのではないかと思うほどの歯ごたえ。そこに燗酒が出てきて、満足満足!店には人も増えてきてにぎやかになってきた。ほとんどが地元のお客。信頼感がある店のようだ。利尻に来たらやはりウニは食べたいと言うことで、生ウニはありますか?と聞いてみると、ちょっと量は多いけれど取れたての海水ウニがあるとのこと。値段も1800円とかなりなもの。考えているとご主人が、「一パックあけると全部食べないと悪くなっちゃうからね。ここいらの店では一番安いよ!」と笑いかけた。もう何軒か寄りたいので、ウニは我慢してホタテのバター焼きをいただいた。ホタテの貝柱をフライパンでバター炒めにするのかと思ったら、殻ごと火にかけた。貝が開いたらバターを乗せてまた焼くといった、いたってシンプルなもの。普通なら、醤油をちょっとかけるのだろうが、何もかけない。出てきたホタテの美味しいこと!シンプル・イズ・ベストとはこのことだろう。海水の塩分で十分なのだそうだ。一軒目からいい店に入った。宿のお母さんに感謝である。(後は番組でお楽しみください)

 もう一軒居酒屋風の「魚勝」に入ってみた。カウンターと小上がり、奥には座敷もあるようだ。カウンターの手前に座り、ふたたび生ビールをもらった。目ざとくご主人が、「観光ですか?」と聞いてきた。あやふやな答えをしていると、「これ珍しいから食べてごらん」とタチカマと言うものを勧められた。何でもタラの白子の蒲鉾らしい。弾力があってビールにはちょうど良い。小上がりでは登山客のような4人組がラーメンを食べている。もう飲み終わったのか、かなり賑やかだ。奥の座敷にもグループが陣取りわいわいと飲んでいる。どうも観光客のようだ。私も観光客の振りをして「生ウニありますか?」と聞いてみると、「ちょうど良いのがあるよ」と、小鉢にちょこっと出してくれた。これが夢にまで見た海水ウニか!と感激しつつ口に運ぶと、その甘さに驚いた。ミョウバンで固めていないため、すぐ溶けるように舌の上で無くなっていく。その雰囲気を楽しみながら、日本酒を口に含むと、なんとも贅沢な気持ちになる。ここまで来てよかった!箸が止まらない。あっという間にたいらげてしまった。もったいないことをした。さっきの店で大盛りを頼めばよかった!後悔先に立たずだ。この店にも、もうそれしかないと言う。多分自分用にちょっと残しておいたものをいただいたのだろう。ラッキーだった。

 もう一軒、気になる店があるので寄ってみよう。「眉倶楽部」というその店は、店の外に色々な文章が飾ってある。利尻島の魅力や、眉倶楽部の歴史についてなどだ。目を引いたのは銀座の文壇バー「眉」の文字だ。そういうバーがあったとは聞いていたが、当然入ったことは無い。ここは一つその話でも聞いてみるかと思い、戸を引いた。店内は靴を脱いで上がる。カウンターらしきテーブルがあり、その反対側にはソファーがあったり、座敷にちゃぶ台があったりと、なんとも不思議な店だ。壁には相当古い映画のポスターがでかでかと貼られている。先客はおらず、ご主人の前に陣取った。酒は男山(旭川)の冷酒をいただいた。ラベルには利尻富士の写真があり、地域限定で出荷しているようだ。ツボダイを焼いていただきながら話を聞いた。銀座の「眉倶楽部」でのこと、稚内へ帰ってきてからのこと、礼文島で店を出したときのこと、最近になってやっと憧れの利尻島に店を出せたことなどなど。酔いも回ってきたので良くは覚えていないが、大変面白い話だった。ツボダイが焼きあがり、一口口に入れるとそのジューシーな味わいに驚いた。一夜干しなのだが、脂が乗って大変美味しい。美味しい、美味しいを連発していると、ご飯にトロロコブの味噌汁が出てきた。更にシシャモの卵を明太子風につけたものやタコブツなども。ここは、一気にご飯をかきこんだ。久しぶりのちゃんとした夕食である。お腹がいっぱいになり、ゆったりした気分に浸っていると、BGMがジャズなのにはじめて気がついた。ご主人は「ジャズに限らず、何でも掛けますよ。シャンソンにフォーク、演歌も」と笑っていた。シャンソンは店の雰囲気にぴったりかもしれない。店は少なくとも居酒屋ではないのだが、利尻島を愛する人たちが集まりそうなアットホームな場所だ。(後は番組でごらんください。)

 店を出るとまだ早い時間だ。いつもならバーにでも行くのだが、いかんせんこの街にはバーはなさそうだ。宿に帰って久しぶりに早く寝ることにしよう。
 始めて来た利尻島は、利尻富士の美しさに魅せられ、絶品の生ウニを堪能し、ツボダイでゆっくり食事をさせてもらった。小さな島だが自然に恵まれ、その自然の恵みを堪能できる素晴らしい島だった。またいつか、美味しいものを食べに来たい島であった。


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