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東北は何回も訪れているが、三陸沿岸の港には初めてである。海の幸に恵まれたこの土地に優れた居酒屋の無いはずはなく、気合いを入れて臨んだ。その証拠に、地方では珍しく二日間に渡ってロケハンを試みた。 |
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| 東京を朝発つと昼にはもう気仙沼である。早速「海の市」という市場に立ち寄った。小さめのマーケットだが、新鮮な魚がところ狭しと並びみんな旨そうだ。しかし、この魚たちが居酒屋で食べられるだろうか? |
| 昼飯時になったので、市場の2階の「まぐろ屋」に入った。新しい店だがまぐろの専門店らしく、まぐろの2色丼(トロと赤身)など、様々なメニューが揃っている。あまり東京では食べられないカジキマグロの刺身をいただいた。カジキマグロはあまり目立たないが、美味しい魚で、脂ののった白身魚のようだ。幸先の良いスタートである。 |
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夕方になり、さて戦闘開始。まずは、南気仙沼駅近くの「大松」だ。釜飯の店らしいのだが、普通の肴もあり、大変古く良い雰囲気だ。秋刀魚の一番良い時期なのでまず秋刀魚の刺身だ。きりっと冷えた生ビールをぐいっとやっていると、クラッシュアイスの上に乗った刺身が出てきた。今日は秋だというのにまだ暑いのでとても良い。私が口開けの客のようだが、休日ということもあり奥の座敷に何組か家族ずれのお客さんが入っていく。みんな釜飯が目的のようだ。私も食べたいが、ここで食べてしまったのでは、この後食べられなくなってしまうのであきらめ、気仙沼の名物だというモウカの星をいただいた。モウカの星とはモウカザメの心臓で、かなりの珍味だそうだ。真っ赤な四足の肉のような刺身を酢味噌に付けて食べるのだが、肉の味より酢味噌の味の方が強く感じられるほどすっきりした味である。ちょっと拍子抜け。しかし、精がつくと言われているので、これからの長丁場にはちょうど良いだろう。 |
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一軒目を出ると、すぐ近くにとても小奇麗な店がある。目当ての店もあるのだが、まだ早いので、ちょっと寄って行こう。「幸治」というその店は、店内も綺麗で、まだできたてのようだ。聞くと、まだ開店二ヶ月だそうで、ご主人も店員さんもまだ初々しい。地元の酒とカツオの刺身をいただいたがなかなかである。これからに期待したい。この店を開店する前は色々な店を回ったであろうから、ちょっと他の店のことも聞いてみた。すると、さすが若者らしく、出てくる名前はバーばかりだ。まあ、渋く飲んでいる若者がいたらそっちのほうが不気味だが。 |
| 次は、昼間歩いていて見つけた「すみや」に入ってみよう。外見は普通の居酒屋なのだが、なぜか引かれる物を感じたのだ。店内は入ってすぐのカウンターにお客さんが3人。奥の小上がりには客は無く、囲炉裏が切ってある。こじんまりとして良い店だ。一人なので、カウンターの隅に座り、燗酒をお願いした。すると地元の角星の「別格」という酒だそうで、とても美味しい。つまみはと考えていると、ご主人から「焼きウニ食べてみる?」と言われ素直に従った。待つこと暫し、隣のお客さんと同時に焼きウニが目の前に置かれた。熱いから注意してという言葉を聞きながら口に放り込むと確かに熱い、しかし美味い。濃厚なウニの味に香ばしさが加わりなんとも言えない味だ。酒のつまみにぴったり。ご主人はさもあり何という顔で視線を私に向けた。初めての客の反応に隣のお客さんも興味心身で、美味しいという一言で、会話が始まった。「よく一人で、こんな店に入ったね。」とか、「何でこの店を選んだの?」とか、多少自虐的なのは常連だからだろう。しかし、最後には「気仙沼で一番の店だよ」と口を揃えていた。「冬になれば囲炉裏に火を熾すから又おいで」という言葉に送られて店を出た。ご主人一人で、常連客を相手に気ままに営業しているところが、地方都市の居酒屋という感じでとても好感が持てる。一つ候補が見つかった。 |
| 今日の四軒目は、雑誌に載っていた店で、必ず行くと決めていた店だ。その「こう太」は、今までの店からさほど遠くないのだが、真っ暗な中にぽつんとあった。東京の繁華街の喧騒に慣れてしまった目には、とても新鮮な感覚だ。さすが人気店らしくカウンターと小上がりの店は満員だ。しかし、もう遅いので、お客さんは帰る支度を始めている。空いたカウンターに腰を下ろし、地元の酒「伏見男山」をいただいた。伏見と言う名前だが京都ではない。どうしてだろう?さすがに美味しい。肴は鰹とカニシンジョウだ。旬の鰹はやはり素晴らしい。戻り鰹の脂の乗った、とろっとした旨味が口の中全体に広がる。カニシンジョウは雑誌に出ていたもので、サメのすり身を使うと言う。これもふわっとしてクリームコロッケのよう。さすがに京都で修業をされただけのことはある。店内は新しい店ではないのだが、清潔に磨かれ京都の小料理屋のようだ。その上、目の前に上がる新鮮な魚を調理するのだから、これほど贅沢な事はない。ここにお願いしよう。(後は番組で御覧下さい) |
| 今日は4軒回ってさすがに少し酔っぱらった。明日はちょっと離れた魚町周辺を回ってみよう。 |
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| 次の日、昼間は時間があるので、気仙沼港の沖に浮かぶ大島に行ってみる事にした。船で約20分。短い船旅だ。殆ど湾の中なので、全く揺れない。大島に着いたは良いけれど当てもない。観光案内所に立ち寄り、地図と自転車を借りた。島内一周の旅に出発だ。取り合えず、島で一番高い所にある展望台に行ってみよう。港のすぐ近くからリフトがあり観光客はみんなそれを使って登っている。私は自転車を借りたので、自分の足で登った。しかしこれが間違いだった。かなり急な坂を登っても登っても着かない。最後は自転車からおり押す羽目となった。小一時間も登っただろうか。やっと着いた山頂からの眺めは素晴らしかった。気仙沼湾が一望でき、三陸のリアス式海岸の様子が手に取るように分かる。ここでオープニングとも一瞬考えたが、ここまで登ってくるのは容易では無いので、すぐに諦めた。下りは天国だ。スピードを出して下れば10分もかからないだろう。しかし、ブレーキの効きがあまり良く無いので、そこそこに。こんな所で、ガードレールにでも激突したらみっともないでは無いか。港に戻ると、疲労困ぱい。島内一周は諦め気仙沼港に引き上げた。(自転車を返す時観光案内所の方にどこまで行かれました?と聞かれたので、展望台まで行って来ましたと答えると、唖然とされた。誰もあそこまで自転車では行かないそうだ。先に聞いておけば良かった) |
| 夕方になり、最初に入ったのは「福よし」。ここもある雑誌に出ていた店で、焼き魚を囲炉裡で、それも串に刺した状態で立てて焼くと言う。絶対行かなくてはと決めていた店だ。(実際、昨日行った「こう太」のご主人が、「福よし」は絶対のお勧めです、と推薦されたのだ。京都で修行中、休みに帰郷した時「福よし」の戻り鰹を食べて「こんなに気仙沼の鰹は美味しいのか!」と驚いたそうだ。)昔ながらの魚問屋が並ぶ魚町の中にちょっと高級かなと思える店構え。店内は、ご主人と弟さんが集めた古材がふんだんに使われ、洒落た番屋のような造り。中でも、囲炉裡とカウンターが素晴らしく、焼き魚を前に飲むか、刺身をさばく包丁を前に飲むか、大変迷う所だ。一枚板の天然木を使ったカウンターに陣取り、生ビールだ。どうしても取りあえずビールを頼んでしまうのは、まだまだ修業が足りないな。魚は何でもござれ。やはりここは鰹の刺身と秋刀魚焼きだ。まだまだ脂の乗りが悪いと言う戻り鰹は、東京で食べる鰹とはレベルが違う。10月の中旬になればもっと脂が乗って来ますよ、との言葉にますます期待が持てる。続いて血合いの部分を味噌たたきにしてくれた。これが又旨い!日本酒を燗でいただき、至福の時を過ごした。しかしまだまだ、秋刀魚が残っている。囲炉裡の炭火で、じっくりと、それも遠火で焼いた秋刀魚が不味いはずは無く、今まで食べた秋刀魚焼きで一番旨い!(これは大袈裟では無く、本当です)もう取材交渉も忘れ、酒と肴に酔いしれてしまった。ふと時間を見るともう2時間ほど滞在している。これはまずい。交渉もすんなりOKを頂き。次の店へと向った。といってももう二軒決まったので、後はただの興味本位で、回るのだが。(後は番組で御覧下さい) |
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| もう居酒屋は決まったので、バーに行ってみよう。昨日紹介されたバーだ。一軒目は「ホットブラッド」。南町の細い路地を入った所にひっそりとあるバーだが、店内は狭いがとてもひっそりでは無い。巨漢のマスターがロックをかけてカクテルを作ってくれる。みかけによらず、若いのに大変礼儀正しいマスターで、気仙沼の若人たちが夜な夜な集まり大騒ぎをするのだろう。 次に入ったのは近くの「プレジャー」。店内はダーツマシーンが置かれ、ややゆったりとしている。いつもながらのギムレットをいただいたが、なかなか美味しい。先程のマスターより少し歳がいっている分、落ち着いた雰囲気だ。もっと古いバーは無いかと聞いてみたら、「ダンヒル」と言うバーを教えてくれた。 |
| まだそう酔っぱらってはいないので、勢いで、もう一軒その「ダンヒル」へ向った。これもすぐ近くなのだが、路地が渋い。幾つかのスナックと居酒屋、そして、「マンボ」という古いカフェ。(「マンボ」にはロケの当日、取材が終わってから太田さんと入ってみました。これが、終戦直後からやっていると言う凄い店で、ビールからウイスキー、うどんからパフェまで何でもござれと言う驚きの店でした。店内は当時としては大変お金がかかったであろうステンドグラスやシャンデリアがあり、グランドキャバレーの様。広い店内にはお客さんがそれぞれ好きなものを頼んで、楽しんでいる、気仙沼の社交場なのでした。)「ダンヒル」はその路地のはずれにあり、古そうなドアをあけると、昭和40年代のような店だった。マスターが一人、暇そうに座っている。お客が来たのに驚いたのか、大きな声で「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。安普請ながら古くピカピカに磨かれたカウンターに腰を下ろし、ジントニックを頼んだ。そのジントニックはちょっと甘めの昔の味。突き出しにピーナッツが出て来た。これも大変懐かしい、ピーナッツだけ。マスターにお話を伺うと、やはり一番古いバーだそうだ。(といっても「マンボ」には負けるが)おしゃべり好きにマスターに昔の気仙沼、石巻などの話を聞きとても良い気分。最後にギムレットをいただくとこれがまた年代物のギムレットだ。年代物のギムレットとはおかしな表現だが、銀座の「クール」で出てくるような甘くて強いギムレット。ギムレットは本来、フレッシュライムでは無く、砂糖入りのライムジュースを使う。(私はフレッシュの方が好きだが)タイムスリップしたような感覚に捕われた。 |
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| 気仙沼は、港、市場などは近代化されつつあるが(昔の方が活気はあったそうだが)、町中は古い建物も多くしっとりしている。何にしても魚が抜群に美味しい。わざわざ交通費をかけても行く価値はある。 だから私は、東京で刺身を食べなくなったのだ。あんなに新鮮で美味しい魚をちょっと足を伸ばせば食べられるのに、東京の寿司屋で高い金を払っていつ取れたか分からないものを食べて良いのか?まあ、これも旅チャンネルと言う放送局にいるお陰だが。(社長ありがとうございます。そして視聴者の方々番組を御覧頂き有り難うございます。みなさんが見てくれないと、私の旅も終わってしまうので。) |
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