関連DVD/書籍情報

愉楽の銀座酒場

太田和彦著愉楽の銀座酒場 09年5月発売!! 1,700円(税込み)

太田和彦の日本百名居酒屋

「太田和彦の日本百名居酒屋」DVD 1~3巻 09年4月発売!! 各3,990円(税込み)

 

髭コラム 第6回 一関編

 秋から冬にかけての東北は本当に美しく、そして、美味しい。何年も番組をやっていると毎年必ず晩秋の東北へ出かけたくなる。と言うことで今回も岩手県の一関を訪れた。
 晩秋と言うにはまだ早い9月、一関駅に降り立った。一関の駅の表示は一ノ関。しかし、一関市の表示は一関。どこがどう違うのか、後で市役所にでも問い合わせてみよう。
 駅のすぐ前のホテルに荷物を預け、市内を回ってみた。まず、一関といえば「ベイシー」と言うほど有名なジャズ喫茶へ向かった。ジャズファンとしては一度訪れたい名店なのだが、私は行った事が無かったのだ。店の前に立つと蔵造り風の堂々とした建物だ。しかし、入り口の張り紙を見て驚愕した。「しばらくの間休みます。」と書いてあるではないか。ここまで来て休みとは!電話で確認すればよかった。後悔しても後の祭りだ。仕方なく、とぼとぼと歩いて釣山公園へ向かった。
 途中に、インターネットで調べておいた「こまつ」と言う居酒屋があり、昼間蕎麦屋として営業していたので、そこで、昼食とした。店は古い蔵を改装したようで、威風堂々としている。店内は一階がカウンターとテーブル席。こじんまりとした良い店だ。カウンターに座り、そばをいただいたが、なかなか美味しい。そして、添えられた紅葉漬けが大変美味しい。紅葉漬けとは鮭の身と卵、すなわちイクラを醤油で漬けた物だ。親子漬けと言うこともあるらしい。カウンターの中の若い板さんに聞くと自家製だうだ。壁に貼られた酒のメニューも良い品添えをしているので、夜が楽しみだ。
 釣山公園は小高い丘で、昔城があったらしい。丘に登る小路沿いにはモミジが沢山並んでいて、晩秋の紅葉はさぞかし綺麗だろうと思いを巡らせた。(実際収録の時期は紅葉に合わせたので、その素晴らしい色を番組でご覧いただけたと思います。)


 夕方になり、いざ出陣。まずは駅前の「喜の川」へ入った。店内は入ってすぐの左側に、日本酒の一升瓶が並ぶリーチインが鎮座し、右側はカウンターだ。奥に座敷が幾つかあるらしい。まだ客のいないカウンターに腰を下ろし、エビスの生ビールをいただいた。
 カウンターの上に並んだ大皿料理が美味しそうだなと眺めていると、店長さんらしき方が、あれはお通しで、好きなものを選んでくださいと声を掛けてきた。みんな美味しそうなのだが、この店の定番だと言うおぼろ豆腐をお願いした。これが大変美味しい。(後で聞いたのだが、お通しは何を頼んでも350円。そして、追加で頼んでも350円だそうだ。5品ぐらい並んでいたので、全部食べても350円×5で1750円。これだけでも十分だ。)これは良い店だ。
  日本酒も地元の酒から岩手県の地酒、日本中の良い酒が集まっている。すかさず地酒、関山のお燗とカツオの刺身をお願いした。戻りカツオの脂の乗ったこってりした味わいと関山の濃厚な味がぴったりだ。そのうちにカウンターに何人か、奥の座敷にも予約のお客さんたちが入ってきた。まだ6時前だがどんどん客の入る繁盛店のようだ。気を良くしてもう一杯。今度は浜千鳥の冷たい酒をいただいた。奥では宴会が始まったようだ。カキの旬も近いので、水山養殖場のカキもいただきたかったかが次の店にも行きたいので早めに取材のお願いをして店を出た。(後は番組でご覧ください。)


 次は昼間そばを食べた「こまつ」へと思ったが、途中に「和楽」と言う看板を発見。ビルの二階だが、岩手県の地酒が揃っているようだ。店内は左側にカウンター、奥に小上がりと言うシンプルな作り。
  先客が一人、カウンターに座っている。私もカウンターに座り燗酒をお願いした。するとカウンターの中からご主人が、「関山の辛口ですがそれでいいですか?」と聞いてきた。さっきの店でいただいたのは純米酒のようだったが、こちらは本醸造のようだ。壁に貼られたメニューには熊や鹿の刺身と言った珍しいものが並んでいる。思い切って蝦夷鹿の刺身をお願いしてみた。お通しは珍味三点盛りだ。燗酒をちびちびやっていると、蝦夷鹿の刺身登場。半分凍っていてルイベのようだが、赤い身は新鮮で、口の中で溶けて甘い香りを発している。味も濃厚で、ちょっと馬刺しに似たようなところがある。そうこうするうちに、カウンターや小上がりに常連客が増え始めた。他の酒も飲んでみたかったが、店のご主人と仲居さんは注文をこなすのに大忙し。なかなか良い店だったが、もう一軒行きたいので早々にお勘定をしていただいた。


 昼間は気が付かなかったが、「こまつ」は繁華街からは少し離れ、暗い道の先にポツンと一軒だけある店だ。昼間に一回入っているので迷わずカウンターへ。するとご主人が、「昼間もいらっしゃいましたね。」と声を掛けてくれた。
 早速、こまつオリジナルの日本酒をお願いし、昼間いただいた紅葉漬けを肴に一杯いただいた。もう三軒目なので余り食べられないが、客がいない事もあって、ご主人と話が弾んだ。 息子さんは板場の修業をしていたが、ご両親がこの蔵を借りて店を始めるときに戻ってきたことや、オリジナルの日本酒も蔵まで行って1タンク分作ってもらっていることなど。話は尽きないが、とても暖かい雰囲気なので早めに取材の話を切り出した。すると、ご主人は太田さんの大ファンでほとんどの本を読んでいるとの事。話はすぐに進み、いつごろ取材に来るのかもその場で決めさせていただいた。話もひと段落し、もう一つ頼もうとすると、ここにも水山養殖場のカキがあるではないか。是非食べたい。気仙沼の「福よし」で食べて以来だ。そのふくよかな味わいにうっとりしていると、「ここのカキは年中食べられますが、5月の連休明けから夏にかけてが一番美味しいですよ。」と信じられないことをおっしゃった。さらに、夏には、わざわざこのカキを外洋に出して、岩牡蠣のように蓄養してるのだそうだ。是非食べたいのだが、また来年来られるかどうか。こんな良い店も珍しいのでまた来ることを約束して店を出た。(後は番組でご覧ください)


 これで、居酒屋2件の目星が付いたので、バーだ。「こまつ」でも教えていただいた「アビエント」と言うバーが近くにあるのだが、まだ開店前のようだ。後でまた来ることにして、駅に程近いNBA会員のバー「シュガーバー」へ。
  ビルの二階の店は照明を落としたブラックのインテリアで大変落ち着く。若い男女のバーテンダー(後でご夫婦だと判明)が数人の客の相手をしていた。カウンターの端に腰を下ろし、ジントニックをいただいた。軽やかな手さばきで作られたジントニックは大変美味しい。聞いたところだと、マスターはこの地域のNBA支部長のお弟子さんで、最近独立されたそうだ。何人かのお客はそれぞれ楽しそうにグラスを傾けている。その様子を見ながら、マスターに話を聞くと、一関には何軒かこういったバーがあるそうだ。その一つを教えていただき、店を後にした。


 近くのバー「シスル」を訪ねてみた。店内はほとんどカウンターだけの小さな店で、インテリアはウッドを基調とした面白い作りだ。5人も座れば満員のカウンターだが、やっと一人だけは座れた。
 ギムレットをいただきマスターにシュガーバーで聞いてきましたと言うと、隣のお客さんから先に声を掛けてきた。「いい店でしょう?一関はこのバーとベイシーしか無いよ。」と少々酔っ払っている様子だ。しかし、「昼間ベイシーへ行ったら休みでしたよ。それも長期で。」と返事すると、「またか!すぐ休むんだよね、ベイシー。」と残念そうだ。何人かのお客さんはみんな楽しそうにマスターと談笑している様子は、いかにも地方の小さな名バーだ。ここに取材をお願いしようかとも思ったが、もう一軒先ほど開店前だったバーにも行ってみようと店を出た。


 もう一度「こまつ」の辺りまで戻り、看板も何もないドアを開けた。「アンビエント」の店内は長いカウンター一本だけ。暗くてよく木の種類は確認できなかったが、重厚で素晴らしいカウンターだ。その長いカウンターに客がぎっしり。もうかなり深い時間だが、バー好きな客たちが静かに飲んでいる。たった一人のマスターは孤軍奮闘だ。ギムレットをお願いし、しばらくバックバーを眺めていると、通常のバーのバックバーとは少し異なり、ボトルが下のほうに並んでいるのに気が付いた。そしてボトルの上の空いたスペースは、一つの絵画を見ているように照明と模様で品良くデザインされている。気が付くと既に時計は0時を回っているが、相変わらずマスターは客の注文に大忙しだ。もうそうとう酔いも回ってきたので、今日はおとなしくホテルに帰ることにした。(先日、一関の取材の日、もう一度このバーを訪れたが、そのとき客は私ともう一人の二人だけ。日によってこんなに変わるものか。だから水商売と言うのかもしれない。この日はゆっくりとマスターと話ができ、一関でも古いバーだと聞いて驚いた。)
 東京や大阪のように店の数は多くは無いが、大変に粒ぞろいな店が多い一関であった。こんな街なら毎日飲み歩いても飽きないだろう。山あいの街なので山も幸に恵まれ、そして気仙沼にも近いので海の幸にも恵まれている。なんて良い処なのだろう。日本酒も美味しい酒が目白押しだし。。



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