関連DVD/書籍情報

愉楽の銀座酒場

太田和彦著愉楽の銀座酒場 09年5月発売!! 1,700円(税込み)

太田和彦の日本百名居酒屋

「太田和彦の日本百名居酒屋」DVD 1~3巻 09年4月発売!! 各3,990円(税込み)

 

髭コラム 第十六回銚子編

 居酒屋紀行の旅もそろそろ終わりに近づいてきた。そこで、近場だが訪れていなかった銚子へ向かった。千葉県は船橋には行っているがそれだけで、近いことがかえって足を遠ざけていたのかもしれない。しかし、日本有数の漁港なのだから絶対に美味しい魚が食べられるはずだと思っていた。
 東京駅地下ホームから、しおさいという特急に乗り二時間弱、やっと銚子に着いた。名古屋まで新幹線で2時間なのに、銚子まで同じぐらいの時間がかかる。そして、何と帰りの電車を調べたら、名古屋より終電が早い。近いと思っていたのだが意外に遠いので、さらに驚いた。
 銚子駅からは、銚子電鉄が犬吠崎まで走っているので乗ってみた。これがまたゆっくりなローカル線。しかし、ここまでゆっくりだと逆に郷愁を誘うのか、とても愛おしい。経営難で廃線に追い込まれるかも知れないという記事を読んだが、ぜひ存続してもらいたいものだ。銚子電鉄を犬吠で降りて、犬吠崎の灯台へ行ってみた。観光シーズンではないので人はあまり多くない。しかし、関東最東端の灯台はとても凛々しく、これが長い間海の安全を守ってきたのだと思うと、とても力強く見えた。さらに、地球の丸く見える丘展望館と言う長い名前の展望台にも上ってみた。すると実際に地球が丸く見えると思えるのが不思議だ。確かに地球は丸いのだが、たかが海抜80メートルも無いような高さなのだから、地球が丸く見えるはずは無く、人間の目の錯覚は面白いものだと実感。
 再び銚子電鉄に乗り、銚子駅方面へ戻った。二つ前の駅、かんのんで降り、銚子漁港へ向かった。新しい銚子漁港は銚子半島の先端のほうにあるのだが、古い漁港は町のすぐ近くにある。既に水揚げは終わっていたが、すぐ近くの漁協の直売所が開いていた。小さな店なのだが、美味しそうな魚がたくさん並んでいる。生の魚は持って帰れないので、アジの開きを5枚買った。何と、一枚100円。形の良い一夜干しだから普通の小売店で買えば200円ぐらいだろうか。良い買い物をした。


 さて、居酒屋の探索だ。漁港の前の通りには大型の料理屋が幾つか並ぶ。しかし、お客は観光客が多い様子で、一人で酒を楽しむ雰囲気ではない。そこで、一つ路地を入ってみると、「大升」と言う看板を発見。暖簾は古い大漁旗で、酒寮の文字もある。古そうな店だが、一つ光るものがありそうだ。早い時間にもう営業しているようなので、早速入ってみた。店内はL字のカウンターのみだが、二階もあるのかもしれない。厨房には歳をめされたお母さんが一人。もう良いですか?と聞くと、「はい、営業してますよ。もう少したつと主人がまいります。」とやさしく答えてくれた。私はカウンターに座り、まずは生ビールを頂いた。
 店内を見回すと、戦時中の飛行機の模型や、戦艦大和のポスターなどが飾られ、相当に古い店だと分かる。お通しでビールをやっていると、ご主人が登場。壁のメニューの中からメカジキの刺身をお願いした。ご主人に話を聞くと、もう45年を超える老舗で、ご主人は戦時中予科練にいたそうだ。どうりで戦闘機の模型が多いわけだ。メカジキの刺身が出てきたので、酒を日本酒の燗に変えた。メカジキは、生で出すところは少ないが、私は大好きだ。新鮮な刺身は歯ごたえがあり、そして、脂が乗っている。日本酒(桜正宗)の燗にぴったりだ。さらにご主人の話はつづき、自分が80歳なこと、昔はここ一帯が遊郭でそれは賑わったことなどなど。その途中にサヨリの一夜干しやさんが焼きなどをお願いし、ご主人の話に耳を傾けた。
 一通り話が終わると、今度は、私のほうから「テレビの取材も来たのですか?」と取材時の写真を指差して聞いてみた。ご主人は「昔、鰯が多量に獲れたときは、テレビの取材もいくつも来たよ。もう懲りたから取材は受けないけれどね。」と出鼻を挫かれてしまった。さらに、奥から本を出してきて、「この本にも出てるんだよ。」と何と太田和彦著の「ニッポン居酒屋放浪記」を見せてくれた。太田さんはこの店を訪れていたのだ。太田さんの本は全て読んでいるつもりだったが、忘れていた。そんなこんなで、取材の話を切り出しにくくなり、目当ての店に向かった。(後は、番組でご覧ください。もう一度銚子を訪れ、取材のお願いをして、やっとOKを頂いたのでした。)


 目当ての店は、「あづま」という、これも古い店らしく、インターネットで調べておいた。しかし、早い時間なのでまだ営業時間前だ。仕方が無いので、少し歩いて「福よし」という店に入った。福よしといえば気仙沼に同名の名居酒屋があるが、ここはどうであろう。店内には先客が一組、座敷のテーブルを囲んでいる。その横にカウンターがあるのだが、靴を脱いであがる掘りごたつ式だ。再び生ビールをお願いし、今度は鰯の刺身だ。そして、ひらめのこぶ締めも追加した。二つともとても美味しいのだが、いまひとつぱっとしない。お客が少ないからなのか、どこと無く寂しい店だ。
 その福よしのすぐ前に「きんの冶」という店があり、そこにも入ってみた。こちらの店は、カウンターと言わず、テーブル席と言わず賑わっている。カウンターの一番端にやっと座り、燗酒を頼んだ。そして、肴はアジのなめろうと、きんの冶焼きだ。千葉県の名産だといわれるなめろうは、魚の刺身を味噌と薬味でたたいたもの。いわゆる味噌たたきである。自宅でもたまに作るのだが、酒の肴にぴったりだ。簡単にできるのもありがたい。そして、きんの冶焼きは大きなハマグリの貝殻に、魚のすり身を入れ、焼いたものだった。これが香ばしくてとても美味しい。さんが焼きの変形だろうが、こちらの方が繊細な味がした。聞くと、30年を超える老舗だそうで、この店に取材をお願いしようかとも考えたが、まだお目当ての店に行っていないので、もう一軒行ってからと思い店を出た。


 「あづま」の燈は付いていた。聞いていた通りの外観で、店内もカウンターだけの昭和時代の小料理屋という感じだ。着物の女将さんがカウンター越しに相手をしてくれる、太田さん好みの店だ。カウンターの奥にも一部屋あるそうで、内密な話をするのにはちょうど良いかも。さて、お酒をとお願いすると、息子さんが奥から出てきた。日本酒は息子さんの担当のようで、なかなか良い品揃えだ。その中から千葉の地酒「不動」を頂き、お通しに出てきた、ソラマメで一杯やった。千葉県のお酒には詳しくないが、なかなか美味しい酒だ。もうかなり食べてきたのでつまみは頼まなかったが、昔は、カウンターの上に大皿で料理を出していたという。今は、メニューも作らずその日に作ったものを何品か出すだけだそうだ。じっくり飲むには良い店だ。この日は客も私一人だったので、早速取材のお願いをすると、何と、居酒屋紀行のファンだと判明。特に息子さんは毎回必ずケーブルテレビを録画しているそうだ。それなら話は早い。取材に快諾していただき、最終列車(特急ではなく普通列車)に乗ろうとお勘定をお願いすると、息子さんから「バスの方が便利ですよ」を教えていただいた。確かに時刻表を見せていただくと、東京駅への高速バスが遅くまで運行している。これなら、普通電車でちんたら帰るより早そうだ。さらに、バス停の近くに最近できた良いバーがあるとの情報も聞き、店を出た。(後は番組でご覧ください。)。


 バスに乗る前に聞いたバー「ダニーディン」へも寄ってみた。若いバーテンダー氏だが、きちんとした態度で美味しいカクテルと作っていただいた。良い店を教えてもらって、良い気分で銚子を後にした。
 初めて伺った銚子だが、なかなか収穫が多かった。銚子電鉄はまだまだ頑張ってほしいし、地球の丸く見える丘展望館も太平洋の孤島で海を眺めるように雄大であった。さらに、漁協直売所でお土産に買ったアジの開きの美味しかったこと。ちょっと、東京から足を伸ばせば、こんなにも面白いところがあるのだから、皆さんもぜひ銚子を訪れてもらいたいものだ。そして、夜遅くまで運行している高速バスに乗るまで、居酒屋で美味しい刺身をつまみに一杯やってもらいたいと思うのは私だけだろうか?



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