関連DVD/書籍情報

愉楽の銀座酒場

太田和彦著愉楽の銀座酒場 09年5月発売!! 1,700円(税込み)

太田和彦の日本百名居酒屋

「太田和彦の日本百名居酒屋」DVD 1~3巻 09年4月発売!! 各3,990円(税込み)

 

髭コラム 第十一回四万十編

 前から乗ってみたかったサンライズ瀬戸に乗るために東京駅に向かった。サンライズ瀬戸は東京と高松をつなぐ夜行列車で、瀬戸大橋を渡って明け方四国に上陸する。寝台個室に入ると、狭いが一晩過ごすには快適そうな部屋だ。夕食は済ませてきたが、まだ寝るには早いので、駅で崎陽軒のシュウマイと缶ビールを仕入れてきた。さあ出発。二階建ての寝台列車の下の階は、車窓の風景がローアングルで面白い。ホームを歩く人々の足ばかり見える。早速、缶ビールを開けシューマイで一杯だ。美味しい!何でただの缶ビールにシュウマイがこんなに美味しいのだろう。酒も肴もシチュエーションで美味しくも不味くもなるのが実感できる。居酒屋でも同じようなものだ。
 一夜明けると岡山であった。ここから南へ向かい瀬戸大橋を渡るのだ。昔、別の仕事で瀬戸大橋の建設記録を撮影したことがあるのだが、完成してから渡るのは初めてだ。四国に来るときは必ずといってよいほど飛行機なのだから仕方が無い。ちょうど朝日が瀬戸内海を昇ってくるところにサンライズ瀬戸は瀬戸大橋を渡り始めた。天気は快晴。ちょっと朝靄がたちこめてはいるが、そこがまた幻想的だ。瀬戸内海の島々に朝日が当たり、絵葉書を見ているよう。これが今回の旅の目的の一つだったので、もう半分満足だ。寝台列車を宇多津で降り、今度は高知経由中村行きの特急、南風に乗り換える。ここからまた4時間の道のりだ。確かに列車の旅の方が好きだが、さすがにちょっと疲れた。
 中村は現在四万十市になり、中村市役所も四万十市役所に変更されている。その市役所の周りが繁華街で、地方都市にしては飲食店が多い。まずは自転車を借り、散策の場所と思っている沈下橋へ向かった。駅から数キロの距離だが、四万十川に沿った道は山道で、平地を走っているのとは大違いだ。しかし、沈下橋に着いたとたんそんな疲れは吹っ飛んだ。なんて美しい光景なのだろう。欄干の無い橋なんて見た事も無かったが、山々と清流の自然に溶け込んだ風景は、まことにすばらしい。川は氾濫するもの。それに逆らうのではなくうまく共存していく。そんな生活が美しいと思うのは私だけだろうか?


 街中に戻り、まず向かったのは国道沿いにある「たにぐち」。料理屋のようだが、入り口を入ると左側にカウンターがあり、一人でも大丈夫だ。カウンターの反対側や二階には幾つか部屋があるようで、かなり大きめな店だ。まずは、先ほどまでの自転車で渇いたのどを潤すため、生ビールだ。肴はカウンターのガラスケースに並んだ魚の中からカツオをお願いした。カツオの旬ではないなと思ったが、高知へ着たらやはりカツオが食べたくなる。不思議なものだ。これから予約が沢山入っているのだろう。カウンターの中の板さん達は準備に大忙しだ。ちょっと話しづらい状況なので、テレビの画面をボーっと眺めていた。カツオもビールも無くなったので、今度は日本酒とゴリ南蛮だ。ゴリは四万十川などの川で捕れると聞いていたので頼んでみた。出てきたゴリはカリカリに揚げて南蛮漬けにしてある。コリコリとした歯ざわりと香ばしい香りで十分楽しめたが、日本酒の銘柄が分からなかったのが残念だ。


 次に向かったのは、国道から路地を一つ入った「日代峰」だ。古そうな引き戸を開けると、右にカウンター、左にテーブル席が並び、奥には座敷もあるようだ。まだお客のいない店内で、ご主人は準備に余念が無い。カウンターに座りメニューを見ると全国の地酒が10種類ほど揃えてあるではないか。しかし、高知の酒は「酔鯨」だけだ。他県の酒を飲んでも仕方が無いので、酔鯨を燗していただいた。カウンター上のガラスケースの中には美味しそうな魚が並んでいるので刺身の盛り合わせにしていただいた。ご主人は、「今の時期は良い魚があまり無くて」と申し訳なさそうだが、ヒラメ、エンガワ、カツオ、イサキ、ウメイロの盛り合わせはそれぞれの刺身に個性があり大変美味しい。合わせた酔鯨は、燗よりも冷のほうが良かったかも。
 準備が一段落したのかご主人が厨房から出てきてカウンターの隣に座った。まだ客が誰も来ないので一服といったところだろうか。話を聞くと、日代峰とは土地の名前でご主人の故郷だそうだ。四万十の近辺は自然が豊かで、食べるものに困ることが無いので、人々はのほほんとしていることなどなど。初めての客なのに心置きなく話せる面白い方だ。今の時期は四万十川の青のりが良いよと言うので、青のりの天ぷらをいただいた。その天ぷらの美味しいこと!単純なのりの天ぷらがこれほど美味しいと思ったことは無かった。天ぷらには日本酒より焼酎と言う事で、四万十の上流で作っている「ダバダ火振」をロックでいただいた。これがまた良く合うこと。この時点で、取材はここへお願いしようと決めていた。(後は番組でご覧ください)


 この後、もう二軒居酒屋を梯子し、二軒とも土佐清水の鯖を刺身でいただいたのだが、ちょっと首を傾げたくなる味だった。いくらブランド品の魚と言っても、絞めてから何日も経ってしまっていれば美味しくないのは当然だ。地元で上がった魚を絞めてすぐ食べる。この基本が失われてしまっては、美味しいものは食べられない。ブランド品でなくても新鮮なものは不味いはずは無く、そこのところをどうも勘違いしている店が多いのは悲しいことだ。
 で、居酒屋は諦めてバーへ向かった。バーの一軒目は「ルンバ」。以前、「西の旅」(京阪神エルマガジン社刊)という雑誌に紹介されていた店だ。階段を上がり、二階のドアを開けると、下駄箱があり、そこで靴を脱いで上がると言う不思議なバーだが、インテリアは正統派バーの風格だ。誰もいないカウンターの真ん中、マスターの正面に座らせていただき、一杯目のジントニックをお願いした。ベテランと思しきマスターは手馴れた動きでジントニックを作っていく。出来上がったカクテルは、まさにベテランの味。大変美味しい。マスターに「美味しいですね」と話すと、これに気を良くしたのか、さまざまなことを聞かせてくれた。四万十(中村)市の歴史から、自然、産業まで。そして、NBA(日本バーテンダー協会)四万十支部長をもう20年も務めていることなどなど。その間、誰もお客さんが来ないのはちょっと気になったが会話が弾む良い店だ。最後にオリジナル(後で、ルンバのマスターのオリジナルではないことが判明)の四万十川クーラーをいただき満足して店を出た。(後は、番組でご覧ください。四万十川クーラーは、ちょっと甘めですが、さわやかな味のすばらしいカクテルでした。)


 取材をお願いできそうな店二軒を見つけたのでもう安心だが、まだ時間が有るのでバーを回ってみよう。先ほどの「日代峰」の近くにある「晴耕雨読」だ。晴耕雨読と言うと芋焼酎を思い出すが、まだ若いマスターのやっているしっかりとしたバーであった。カウンターがメインの小さなバーだが、マスター一人ではちょうど良い大きさだろう。まずジントニックをお願いし、しばらくマスターとお話。この店は開店6年目で、以前は高知のクラップスという店で働いていたこと。晴耕雨読と言う店名の由来。高知を出て四万十で店を出した理由などなど。ここでは書けないような内容だがなかなか面白い話ばかりだった。もう一杯ギムレットをいただき、店を出た。


 もう一軒女性バーテンダーがやっている「オリジン」にも寄ってみた。小ぶりのバーだが、女性らしいインテリアで落ち着いてカクテルを楽しめる雰囲気だ。ここでもジントニックとギムレットをいただき、ゆっくりと小一時間今日の事を振り返ってみた。昨日の夜東京を立ち、四万十へ着いたのが今日の昼間。その後、沈下橋を見て、居酒屋4軒、バーを3軒。長い日だった。しかし、こんな旅も悪くは無い。だが、一人でなければこんな旅はできないかも。誰も付いてきてくれる人はいないだろうから。
 ホテルに帰ろうと道に出ると、すぐ近くにアメリカンバー「サンライズ」という店を発見。ついでにもう一軒寄ってみよう。店内はまさにアメリカン。太い丸太を半分にしたような巨大なカウンターとテーブル席、そしてダーツ。アメリカの田舎に有りそうなありふれたバーだ。しかし、なぜかとても落ち着く。当然酒はバーボンだ。私の好きなジンビームのロックをもらい、気分はすっかりカーボーイ。マスターもかなり渋い。私より年上だろう。カントリーファッションがとても似合っている。聞けば、ここで20年、NBA四万十支部の会員としても活躍していると言う。その前は、大阪でファッションに関する仕事をしていたと言うから、店の雰囲気は推して知るべしだ。
 もうかなり酔っ払ってしまい、ホテルにどうやってたどり着いたかも覚えていない。しかし、はじめて訪れた四万十はかなり面白かった。居酒屋、バーの数は多いし、自然も豊か。確かに、東京や大阪からはかなり遠く、時間もかかる。だが、それが幸いし、都会ずれしていない人々と自然がいまだに残る理想郷だと思えてきた。



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