|
久しぶりの四国。なぜ四国に来たかというと、サンライズ瀬戸に乗りたかったのだ。サンライズ瀬戸は東京と高松をつなぐ夜行列車。その搭乗記は次回に譲るとして、とりあえず高知経由で四万十市(旧中村市)へ入った。旅の行程は四万十が先であったが、放送は宇和島が先なため今回は宇和島編となる。
|
|
|
中村駅から窪川駅まで一度出て、そこから予土線に乗り換え、宇和島まで普通列車で約二時間。その間、一度トイレ休憩がある。なんと列車にはトイレが付いていないのだ。都会の電車であれば、トイレのために途中下車でしても、すぐに次の電車が来るが、このローカル線では、一日に何本も運行されていない。二時間もトイレを我慢するのは大変だと思っていたら、ちょうど真ん中あたりの江川崎駅で10分ほどトイレ休憩のため停車した。貴重な体験をさせてもらった。
|
|
|
ホテルに荷物を置き、駅前で自転車を借りた。まずは昼食だ。夜の目星を付けている「ほづみ亭」が昼食時も営業しているので入ってみた。大衆割烹の文字が看板を飾る通り、店内はカウンターと仕切られたテーブル席が幾つか、さらに奥や二階にも部屋がありそうだ。昼食なので軽いものをと思い、鯛茶漬けをお願いした。宇和島には、名物料理の鯛めしと言うものがあるが、お楽しみは後に残しておこう。鯛茶漬けは鯛のあらで出汁をとった上品なもので、大変美味しかった。これは夜が楽しみだ。カウンターの真ん中にはアジの刺身を肴に、早くもビールを飲んでいる兵もいた。
|
|
|
散策場所の下見に宇和島城へ向かった。宇和島城は伊達藩の城だそうだ。江戸時代前期に伊達政宗の長子をこの土地に送ったそうだが、まことにご苦労なことだ。仙台から宇和島へ引っ越すなど、現代でも大変だろうが、まして江戸時代、どれくらいの時間を要したのだろう。気の遠くなるような話である。
宇和島の町のほぼ中心に位置する小高い丘の上に立つ宇和島城は、小さいが大変立派で、山城の風格をよく備えている。天守閣からの眺めもすばらしい。小さい町だが、海の幸、山の幸に恵まれ、殿様は優雅な生活を送っていたのだろう。羨ましいではないか。
|
|
|
夕方になり、再び「ほづみ亭」を訪れた。まずは生ビールで一杯。カウンターの後ろに吊ってある黒板のメニューが素晴らしい。地元で獲れる魚の刺身から煮物、焼き物、名物じゃこ天、鯛めしまで。全てがおいしそうで悩んでしまう。その中から釣りアジとせい(カメの手)をお願いした。
釣りアジはまさに脂が乗ってさらにコリコリ。言う事なし。せいも茹で上げの暖かい汁が磯の香りを口の中に運んでくれる。ここで、日本酒に変更。宇和島市より少し北の西予市(旧宇和島町)の酒「開明」の吟醸酒。四国は高知の酒は有名だが、愛媛県の酒はあまり飲んだことがなく、新鮮な味。
ここで一息つき、板さんに話を向けると、頑固そうな顔をしているが意外に良くしゃべる方だ。魚の美味しさを褒めると、気を良くしたのか、さも当然のように笑っていた。次の肴を頼もうと「鯖の刺身はどうですか?」と聞くと、「今日の鯖はまだ捌いてないからなんともいえないな。」との答え。それではと、からすみと次の酒「京ひな」(愛媛県内子)をいただいた。「京ひな」は、かの有名な「吹毛剣」の蔵で、私は初めて飲んだ。すっきりした中にもこくのある良い酒だ。濃厚な味のからすみにちょうど良い。
一人美味しい酒と肴に舌鼓を打っていると、カウンターにも客が増えてきた。新しい客が、鯖の刺身を頼んだ。さっき、捌いてないから分からないといっていた鯖だ。すぐさま捌いてお客の前に出し、その足で、私の目の前に来て「今日の鯖は、あまり良くないよ。」と小さい声でささやき、手でノーというしぐさをするではないか。まあ、そこまで言われては頼みづらいので、「ほうたれ」(カタクチイワシの刺身)をお願いした。すると、ほうたれの隅に鯖の刺身を二切れ付けてくれた。活きの良いほうたれは、これが鰯かと思うくらい清潔な味。そして、おまけにくれた鯖は、とても美味しい。これが良くないとは、良い鯖はどんな味がするのだろう。驚くべき宇和島!
じゃこ天や鯛めしも食べたかったのだが、まだ行く店があるので、板さんに「また戻ってくるから、鯛めしお願いします。」と言い残して店を出た。(後は番組でご覧ください。ちなみに、今日の鯖は余り良くないよと教えてくれた板さん(チーフ)は、取材当日お休みで、映像には登場しませんのであしからず。)
|
|
|
もう一軒、目星を付けていた「三原」へ向かった。渋い外観の良さそうな店だ。店内は掘りごたつ式のカウンターと、座敷にテーブルが幾つか。そして、奥の部屋では宴会の真っ最中だ。宴会の客以外は私一人。ちょっと拍子抜けだが、カウンターの上には宴会料理の用意が並んでいるので仕方なく座敷のテーブルに一人で座った。
女将さんらしき方が、注文を取りに来て、「コースでよろしいですか?」と聞いてきた。ここでコース料理を食べていては次に店に行けないので、「単品ではだめですか?」と聞き返すと、ご主人に聞いてくれた。すると、ご主人はカウンターの中から「ウマズラハギの刺身ぐらいでしたら出来ますが。」と承諾してくれたようだ。コース料理がメインとは、リサーチ不足だ。反省しなければ。
悔やんでいても仕方がないので、メニューの中から日本酒「日置桜」とウマズラハギをお願いした。と、すぐに突き出しが2品、目の前に置かれた。女将さんの説明によると、ウニ豆腐のキャビア乗せとサケとイサキの揚げ南蛮だそうだ。そして、氷を引きつめた器に二合は入る片口をのせ、日本酒がなみなみと注がれてきた。突き出しも日本酒も、見た目は高級な料亭で(行った事は無いが)食べているような雰囲気だ。さらに、味も高級料亭そのもの。ウニ豆腐のキャビア乗せが不味い筈は無く、高級感漂う最高の味だ。「日置桜」は地元の酒ではないが、品の良い清潔な味が美味しさを倍増させる。
感心していると、ウマズラハギの活造りが大きな皿に丸々一匹出てきた。肝も握りこぶし一個分ぐらいはあろうか。こんなに一人で食べられるかなと思うと同時に勘定はいくら取られるのだろうと不安になってしまった。頼んだものは仕方が無いので、思い切って箸を付けた。
まず肝だ。本当に新鮮な肝はこんな味がするのか!と驚くほど清潔で濃厚。酒が進んで困る。身もこりこりで噛めば噛むほど味が出てくる。どんどん次から次へと箸が止まらない。ウマズラハギ丸ごと一匹と二合もある日本酒があっという間に無くなった。それを見たご主人が、もう一品作りましょうとウマズラハギの皿を引き上げた。待つことしばし、ウマズラハギのあらを使った魚ちりが出来上がった。具は大して入ってはいないが骨に残った肉が大変美味しく、出汁も最高。すごい店があったものだ。
聞くと、ご主人は神田の割烹で料理を作っていたが戻ってきて、15年前にこの店をオープンさせたそうだ。宇和島の方が新鮮な素材が手に入るから面白いとも言っていた。恐る恐るお勘定をお願いすると、あれだけ豪華な料理と酒で4100円。今度はぜひコース料理を食べてみたいものだ。
|
|
|
もう一軒バーを見つけたいのだが、あまり当てはない。インターネットで、名前だけ発見した「コクテェール」へ行ってみよう。コクテェールという名前からしてカクテルを飲ませてくれるだろう。雑居ビルの2階の扉を開けると、照明を落としたシックな空間が広がった。一目で気に入った。カウンターには先客が一人コーヒーを飲んでいる。車で来たのだろうか。飲酒運転の取締りが厳しくなったからといって、バーでコーヒーを飲んでいる姿は珍しい。
白髪交じりのマスターは私より年上だろうが、スリムでハンサムだ。ジントニックをお願いし、話を聞くと、場所は何回か変わったが、もう20年ぐらいコクテェールの名前で営業しているそうだ。そして、NBA(日本バーテンダー協会)の宇和島支部長を務められていたという。出来上がったジントニックは単純だが難しいと言われるカクテル。しかし元支部長、さすがに年季が入って大変おいしい。第一印象通り良い店だ。
ここに取材をお願いしようとすぐに決めた。どこからそんな話になったのかよく覚えていないのだが、先客一人を巻き込んで宇和島が活況を呈していた時代の話になった。先客によると、みかん1箱や鰤1匹で一晩中お遊びができたという。鰤はいざ知らず、今ではみかん1箱では大した物は食べられないであろう。ITバブルではなく、農林水産バブルみたいな時があったのかと思うと、その時代の地方の生活は裕福だったのだなと感心する。都会に住んでいる私には想像もつかないが、その時代に帰ってみたいものだ。(後は、番組でご覧ください。)
|
|
|
バーも良い店が見つかったので、後は浮気せず「ほづみ亭」に戻り、鯛めしと取材交渉だ。カウンターは今まで満員だったのだろう、まだ皿などが片付けられないまま残っていた。空いた席に腰を下ろし、「鯛めし食べに戻ってきました。」と板さんに声をかけると、笑って「お帰りなさい。」と返してくれる。
まずはじゃこ天に生ビールだ。すると、「じゃこ天も良いけど、揚げないで焼いたものも有りますよ。そちらの方がお勧めです。」と勧められた。じゃあと頼むと、若手の料理人から「すみません売り切れです。」と悲しい答え。やはりじゃこ天を食べろとの神のお告げか。
出てきたじゃこ天のおいしいこと!生ビールにぴったりだ。さすが日本一の宇和島のじゃこ天だ。そして、最後に約束通りにお願いした鯛めしに驚いた。鯛めしと言うと鯛の炊き込みご飯と思われがちだが、宇和島のそれは違うと聞いていた。が、私の予想をはるかに超えた代物だった。生の鯛の切り身に生卵と甘い醤油ダレをかけ、かき回し、それをご飯にぶっ掛けて食べるのだ。鯛茶漬けのあっさりした味とは正反対で、生卵と甘辛いタレなのだから、こってりとしてカロリーが高そうな、でも最高に美味しい物だった。しかも、お茶碗に軽く3杯分ある。ボリュームも想像を超えていた。もう満腹で何も食べられない。最後に、ご主人に取材のお願いをすると、番組のことはご存知らしく、快諾していただいた。
|
|
|
それにしても、宇和島の魚は凄い!今まで幾つかの魚の名店にお邪魔しているが、その中でもトップクラスだろう。豊後水道の潮流にもまれた魚のおいしさを痛感した思いだ。四国の松山からさらに先の宇和島に、本当の魚を見つけた。本当においしい新鮮な魚は、都会では食べられない。地方の漁港にあがった魚をその場で食べなければ本当の味はわからないのだと実感した旅だった。
|
|