関連DVD/書籍情報

愉楽の銀座酒場

太田和彦著愉楽の銀座酒場 09年5月発売!! 1,700円(税込み)

太田和彦の日本百名居酒屋

「太田和彦の日本百名居酒屋」DVD 1~3巻 09年4月発売!! 各3,990円(税込み)

 


 1999年4月から始まった居酒屋紀行シリーズも、8シーズン目を向え、放送回数139回、紹介した店はゆうに300軒を越えた。旅チャンネルの番組の中では最長の番組になり、これも毎回見てくれている視聴者の方々のお陰だと思うと感謝感謝で、これからも益々頑張らねばと思う日々だ。
 新シリーズ「ニッポン居酒屋紀行ファイナル」の第一回目は恒例の対談と決めていた。しかし、今年は誰と対談をやってもらおうかと考えていたところに、雑誌「荷風」から面白い話が舞い込んだ。漫画の連載をしているラズウェル細木さんとの対談はどうだろうと言うのだ。ちょうど太田さんも荷風で連載をしているし、ラズウェル細木さんの「酒のほそ道」は今や酒飲み達の間では知らない人はいないほど読まれている。さらに、対談の様子が、旅チャンネルだけでなく、「荷風」にも紹介されればまさに一石二鳥だ。

 と言うことで、早速、対談場所を見つけることとなった。まず向ったのは、西新橋と言うか虎ノ門の「酒亭 矢満一」。ちょっと前の「dancyu」(プレジデント社)に載っていた店だ(「dancyu」にはいつも大変お世話になっているので、編集長の里美さんには足を向けて寝られない。今度いつかお礼をしなくては)。
 虎ノ門と言えばかの有名な「鈴伝」がすぐ思い付くが、親父さんは元気だろうか? しばらくご無沙汰しているので、近々顔を出さなくては。
 さて目当ての店だが、ビルの一階を改装して、木をふんだんに使った民芸調の店にしている。店内はLの字のカウンターにテーブル席が4〜5個とちょっと大きめな店だ。生ビールと、カツオをお願いし、最初の一口だ。蒸し暑い季節になってきたので、ビールの喉越しがたまらない。やはり夏のビールは旨い!(冬でも美味しいが) さらに続いて、もつ煮込みと「秋鹿」を注文。カウンターの中では職人風の若い男性二人が黙々と働き、注文は若い女性とご主人らしき男性がてきぱきこなしており、大変気持ちが良い。まだ若い店だが、これからもどんどん良くなっていくだろう。虎ノ門のサラリーマンがちょっと立ち寄るには理想的ではなかろうか?

 次に向ったのは、佃島の「大壷」だ。歴史のある店で、魚が美味しいと聞いて、出かけてみた。佃島も昔とはずいぶんと風景が変わってしまった。高層のマンションが立ち並び、その間に昔からの民家がひっそりと残っている感じだ。その、ひっそりと残った一角に二階建ての「大壷」がある。5人ほど入れる小さなカウンターの奥には座敷があり、二階もあるようだ。
 まずは、壜ビールをいただき、お通しの枝豆で一杯。夏の定番だ。ご主人が料理を作り、奥さんが注文をとる。永年続けているコンビがなんとも気持ちが良い。初めて入った店なのにずっと昔から知っているような気になっている自分が面白い。刺身をお願いし、冷酒をもらった。大メーカーの冷酒だが、刺身が美味しいのと、佃島で飲んでいるという思いが、酒を旨くした。
 聞くと、この店の近くの大きめの土地の所有者には、バブルのときに大もうけをした人が沢山いたらしい。それでも、この店の周りは土地が小さかったので、手を出されなかったようだ。古くからの店が残ったのはそんな理由だったのだ。しかし、それでよかったのだろう。バブル後に土地は値下がりし、夜逃げ同然でいなくなった人もいると言うのだから。
 東京下町、古くからの雰囲気を残す素晴らしい店だった。

 その足で、すぐ近くの「江戸家」へ向った。この店は太田さんが新聞の連載で紹介していた店だ。いかにも居酒屋風の作りは、なかなか落ち着く。カウンターとテーブルが三つ。ここも二階があるようだ。カウンターの真ん中に座り、まずは生ビールと煮込みだ。
 まだ早い時間なので、客はいない。ゆっくりメニューを見ると、イカの丸焼きが美味しそうだ。マグロ料理も充実している。築地が近いこともあり、魚料理には自信を持っている様だ。その後、刺身をいただいたが、酔ってきたのか良く覚えていない。今日のところは早めに引き上げよう。東京なのだからまた来れば良い。

 翌日、今度は三軒茶屋へ向った。まずは、太田さんの著書にも登場する「味とめ」だ。昼間から営業しているので、早めに行ってみた。
 古そうな店構えで、普通の居酒屋風だが、中に入って驚いた。壁一面に張られたお品書きに、新聞の山や、乱雑に置かれた一升瓶など。若い男の独身寮みたいな雰囲気だ。小上がりとカウンターにはもう既に何人かが飲んでいる。女将さんに一人だと伝えると、小上がりの一番奥を進められた。四人がけのちゃぶ台に一人で座る。
 早速ホッピーをお願いし、壁に張り出されたお品書きに目をやるが、何を頼んでよいものかひとしきり悩んだすえ、キビナゴのから揚げを注文。下町ではよくホッピーを飲むが、山の手のこの地区ではほとんどやらない。しかし、この店の雰囲気には酎ハイかホッピーだろう。そんな気持ちにさせられ、キビナゴで一杯やると、なんだか落ち着く。面白いものだ。こんな店が三軒茶屋に残っていたとは、奇跡に近いのではなかろうか。

 折角、三軒茶屋へ来たので、もう少し回ってみよう。これも「dancyu」に掲載されていた「うち田」。まだ新しい様で、小奇麗な店だ。カウンターが五席ほどと、小上がりにテーブル二つの居酒屋としてはちょうど良い広さだ。
 生ビールにお通しで、まずは喉を潤す。そのお通しに驚いた。松茸の煮浸しだ。中国産ですよと笑っているご主人だが、気合を感じた。そして、刺身は初物、秋刀魚だ。まだ値の高い秋刀魚だが、いち早く刺身で出すのはさすがだ。酒も青森の名蔵、菊駒の「十」「酔」が並ぶ。私は「酔」をいただき、秋刀魚に合わせてみた。まだ余り脂はのっていないが、すっきりとした日本酒にぴったりだ。
 カウンターの上に並ぶ煮込みなどが美味しそうなので聞くと、お母様の手作りだそうだ。近くで飲み屋をやっていて、毎日届けてくれるらしい。これは良い店を知ったものだ。ちょっと、対談の収録には狭いが、今度三軒茶屋編をやるならこの店にお願いするだろう。(この後、お母様の店にも当然行ってみました。居酒屋という雰囲気ではないが、地元の方たちが和気藹々と飲んでいて、とても良い雰囲気でした。)

 日を改めて、今度は北へ向った。今まで回った店は、大変良い居酒屋なのだが、対談を収録するにはちょっと狭い(大箱の居酒屋は私個人としても余り好きではないので、仕方が無いのだが)。そこで、第一回目の対談(なぎら健壱さん)を行った大塚「串駒」に行ってみた。
 最近新しい店に引っ越したと聞いていたので、新店を見てみたい気持ちもあったのだ。大塚駅から徒歩5分ほど。以前の店より、ちょっと駅よりだ。前の店同様、大きな杉玉が店頭に下がっている。引き戸を開けて店内に入ると、ちょっと形は変わったが、以前と変わりない居酒屋の雰囲気が漂う。まだ早い時間なので誰も客はいないが、「ご予約ですか?」と聞かれた。いまだに人気店のようだ。以前も予約しないで行ったら、入れないことがあったのだ。しかし、今日は一人なので、カウンター(二人しか座れない)に案内してもらった。
 腰を下ろしてすぐに、ビールをもらい、お通しを待った。ここのお通しはちゃんとしたつまみが2品も付く。それを待ってから注文したほうが、ダブらなくて良い。若い店員さんに、「大林さんは来ますか?」と聞くと「何時になるか分かりませんが、必ず来ます」との返事。まあゆっくり待とう。もう何年もお会いしていない。大林さんはここのご主人で、銘酒居酒屋の立役者と言って良い人物だ。ビールから日本酒(三重県名張の酒「而今」。実は初めて飲みました)に変え、お通しと共にゆっくり楽しんだ。
 そうこうする内、お客さんも増え始め、店内は騒がしくなってきた。私も、シラスおろし等をつまみながらそろそろ帰ろうかと思っていたところに、大林ご主人が現れた。いつも通り作務衣に帽子姿だ。入ってくるなり「久しぶり!」と、大きな声を上げた。こちらも挨拶をすると、ご主人は店のお客全員に挨拶して回った。カウンターのもう一つの席に着くと、早速店員に酒を持ってこさせる。これもいつも通りだ。そして、「在庫処分なんですよ。へっ、へっ、へっ!」としゃべりだす。相変わらずだ。でも、ちょっと齢をとった感じだ。以前から細い体が益々細くなったように見える。何も食べないで日本酒ばかり飲んでいるらしいので、心配だ。
 大林さんの機関銃のようなおしゃべりの間をすり抜けて、店の話を聞くと、以前と同じように二階があるという。その二階を見せてもらうと、以前より広くなっていた。しかし、雰囲気は前と変わらず素晴らしいので、「ここなら対談を収録するのにちょうど良いな。」と心の中で思っていた。帰る段になって、「また、太田さんとの対談を収録させてもらって良いですか?」と聞くと、「空いてればいいよ。へっ、へっ、へっ!」と笑った。詳しくはまた連絡することにして、店を後にした。それにしても、大林さんは変わらない。前よりさらに饒舌になったようだ。まあ、店長をはじめ優秀なスタッフが付いているから、安心なのだろう。お客と酒の話をするのが今の大林さんの仕事なのだ(後は、番組でご覧ください)。

 最後に、「なぎら健壱の下町酒場紀行」でお邪魔した、神田の「むら冶屋」へ行ってみよう。日本酒の揃えが素晴らしい蕎麦屋?で、神田北口からすぐなのだが、いかにも飲み屋街という雰囲気の中にひっそりとある。蕎麦屋といっても、ほとんど蕎麦を食べている人は無く、日本酒と本格焼酎を飲んでいる人ばかりだ。店内は、カウンターは無く、4人用のテーブルがいくつか並んでいる。
 入り口すぐのテーブルに座らせてもらい、ご主人に挨拶すると、「久しぶりですね。」と覚えていてくださった。ビールと刺身をお願いし、すぐに厨房横に並んでいるお惣菜類を見に行った。キンピラやおから、ナス、きゅうりなどが並び、みんな美味しそうだ。おからを一つお願いし、席へ戻り、今度は日本酒だ。ご主人にお勧めで一杯頼むと、聞いたことも無い酒が出てきた。ここのご主人は、有名な酒はほとんど仕入れしないで、無名な酒ばかり仕入れてくる。それがなかなか美味しいので、お勧めでいただくことになるのだ。この日いただいたのも、初めての酒だ。しかし、これが美味しい。本当に美味しい酒というものは、まだまだ隠れているものだ。
 最後にざる蕎麦をたぐって、帰ろうとすると、奥に部屋を増設したと言う。以前は、手前の部屋だけだったので、いつも混んでおり、入れないときも多かったが、奥のトイレの脇に、手前の部屋よりちょっと広い部屋がつながっていた。何でも、隣の部屋が空いたのでぶち抜いたそうだ。店も広がり、なかなか良い雰囲気だが、いかんせん蕎麦屋だ。対談の場としてはちょっと違うかもしれない。そうだ、今度番組のオフ会をお願いしてみよう。土曜日がお休みなので、貸切にできれば、40人ぐらいは入る。番組のファンの方たちは日本酒ファンが多いので、きっと満足してくれるだろう。
 次回からは、地方の隠れた名居酒屋を探して旅に出る。これから一年間、どれくらいの居酒屋にめぐり合えるか。まだまだ旅は続くのだ。さあ、どこからはじめようか。思いは既に旅路に向っていた。

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