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初回放送: #26 4/15(火) 21:30-22:00 ほか |
#26 田子編旅はいつも、予期せぬ一言から広がりを見せる。南伊豆の田子で宿をとった民宿「はかまだ」は、遊漁船ではない期待通りの専業漁師だった。旅の疲れと酒の酔いが同化した時分に、「エビ網を仕掛けてあんだが、朝、一緒に揚げに行くかい? 」ときた。 えっ? と一瞬たじろぐも、願ったりの「ぶらり的出会い」に断る理由はない。宴を早々に引き上げての午前4時、漁港片隅の教えられた岸壁に向かえば、ドラム缶に残材らしきがくべられて、熱い炎が燃えたぎっていた。 |
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夜が明け切らぬまま小船は沖合に出るも、海はまさに「油をうったよう」な凪である。付近には岩ともつかない小島が散在して、浅い水深にして底は岩だらけと想像できる。 「静かなぁいいんだけんど、こういう日はエビが掛からんよ」 エビとは高価なイセエビであり、漁が解禁されたばかりのようだ。暗闇に漂う白いだけで簡素な浮標を引き上げて、海底に張った刺し網を引き揚げる。刺し網とは魚が絡むだけではなく、イセエビやサザエ、ときにはタコやアワビも捕れることがある。 漁師は金になる獲物を期待して、力強く網を引き揚げるのだが、どうも状況は芳しくない。磯臭さで嫌われるニザダイ(さんのじ)が何匹か掛かっても、網は岩に絡まってメリメリと破れていく。重そうなので何かと思いきや、大きな岩と、これも市場では嫌われもののタカノハダイが絡まっているだけだった。 |
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惨憺たる現実でも、港に帰れば魚網の掃除や繕いが待っている。岸壁に打ち捨てられたニザダイを見つめて、実は立ち去りがたかった。まだ寒い時期の、ここまで大きなニザダイは絶対に旨いのだ! 「出刃があんから、食えよ」とは、何処の漁師も乱暴である。岸壁の倉庫にあった出刃は、包丁よりも太古の「なぎなた」に似るが、ざくざくといつもの漁師料理指南は始まった。 皮を剥いでの1切れは、やっぱり感動的な旨さである。脂ののりといい、躍動感のある香りといい申し分ない。なぜこの魚を、みんなが嫌うのだろう。思えばエスキモーたちがアザラシの生肉を食うように、私は我を忘れ、粗っぽいナイフでニザダイの肉を剥いでは食っていたに違いない。 |
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田子漁港から垣間見られる距離に「さかなや食道」なる看板があり、どこか「惹かれる思い」がして暖簾をくぐる。店頭のショーケースに見た、カツオの「はらす(腹下の薄身)」らしきのことを聞くとやっぱりで、田子はカツオの本場だったと気づく。「はらす」などはと、あえて「などは」と言ってしまうが、元来は鰹節工場からでる副産物のようなもので、商品にされることはなかった。それ立派に「定食」にして商売しているのだからエライ!と同時に驚きでもある。さっそく注文すれば、大ガツオの「はらす」腹身とはいえぶ厚くて、顔を見せたオヤジが、丸ごとかじるのだとアドバイス。ほどよい塩分とカツオの脂が舌にまわって、お茶とはいかがなものか・・。ビールに切り替えての、オヤジの話がまたおもしろい。 |
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「田子には、塩ガツオがあってさね。そのしょっぱいのを、好きな人もあるがです」 厨房で働く息子夫婦は、1切れあれば7~8人で飯が食える、と旅人を笑う。なんだか食ってみたくなって、あるの? と聞けば、あると言う。長い説明などして笑っていないで、早く現物を出せばいいものを、「さかなや食堂」って変な店だ。 そして、出てきた「塩ガツオ」である。箸が触れた瞬間に、厨房奥で笑い声。オヤジは口をあんぐり開けたまま、一度にそれじゃ食べ過ぎだと、言わんばかり。塩で硬く締まったヤツを箸で削り取り、今度は手でつまんで少しだけ口に入れる。厨房の笑い声は、遠慮を忘れたようだ。食堂の家族全員に見つめられる中で、しっかりと噛みしめる。声が出ない・・不思議な旨味に、表現ができないのだ。笑い声はいつしか止まって、地元人は私の「一言」を食い入るように待っているのがわかる。「旨い・・。」が出ると、猛烈な塩分とカツオの脂が、タンパク質が、凝縮して一体となった決して言い表せないであろう言葉がほとばしる。正直に言うと、噛みしめるほどに塩気のすき間から絶え間なく旨味が滲んできて、飲み込むのがもったいないのだ。気づけば地元人は笑うことを止めて、そうだそうだと大きく頷いているではないか。塩ガツオの洗礼を受ければ、私もすっかり田子の人だ。 |
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田子漁港の「さかなや食堂」は出前が主力であって、そのほとんどが漁港内で働く漁師やそこで釣り糸を垂れる釣り人だという。その名物出前人がオヤジさんであって、たまに息子や嫁が配達に行くと、がっかりされるとか。そのオヤジがヘルメットをかぶって、また配達に行く。店前で警笛一発! さっそうと漁港を走り抜ける後ろ姿は、楽しそうでもあり美しい。バイクから「おか持ち」を下ろして、岸壁にすわって網繕いをする漁師に何やら「丼」らしきを手渡しているのが遠目に見えた。 |
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