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#23  3/1(土) 15:00~15:30 ほか

#23 相馬原釜漁港→民宿「岬荘」→松川浦

相馬の刺し網漁は、命知らずの荒くれ漁だった。宍戸兄弟が乗る「明神丸」は太平洋の沖で木の葉のように揺れ、波しぶきを頭からかぶっていた。松川浦漁港を出港したのは午前1時、やっと陸に帰ってきたのは午前7時半だった。

 黄金色の朝日を背に受けて、生きている・・が本音だった。明神丸はゆっくりと「原釜漁港」へと入っていく。すでに漁港は働く人々や水揚げする漁船でごった返して、陸の世界を目の当たり。こんな大きな漁港が、東北にあったのか! 恥ずかしながら原釜漁港は、全国でも有数の近海魚水揚げ漁港だったのだ。

 宍戸兄弟にお礼を言って下船をすれば、笑いながらバケツに魚を放り投げてくれる。クサウオ(水どんこ)・ガンギエイ(かすべ)・ケムシカジカ・ヤツシロガイなどなど。もらってばかりじゃ申し訳ないと、奥さんの手伝いで魚を構内へ運ぶ。ところが魚種によって「競り」と「入札」の場に分かれるようで、素人はいつもよけいなことばかりする。

 

 

 

 

 

 

それではと構内を散策すれば、水どんこの皮を剥いている人たちがいるじゃないか。どう料理するのかと思ったら、なぁんだ簡単そうだ。

「もらったんか? もってきな、剥いてやっから。生のまま煮たり揚げたりすっけど、ちっとぉ干した方が旨ぇなぁ、オラわだど」

 優しいオバチャンたちが、忙しいのに手を休めず食べ方を教えてくれる。突然のよそ者なのに、みんなとてもにこやかだ。そうか、ちっと干した方が旨いのか、オラわだど・・。笑っちゃ失礼だが、しばらくクセになりそうだ。オラわだど・・(笑)。

 

原釜漁港は広い。朝のこの時間はもっとも忙しいときで、みんなごった返しながら走っている。女性が多いことに気づくと、やっぱりだ。

「原釜は女性が強いの、陸に上がったら女の世界よ」

 オバチャンが、高らかに笑ってくれた。その間を縫うように歩いていると、やはり北の魚だなぁと思う。7㎏もあるマダラもガンギエイもアイナメもカジカも、みんなモノクロなのだ。色のある魚がほとんどないのに、どれも健康的に太っていて旨そうである。

 水揚げ真っ最中の底引き漁船に近づけば、子持ちのムシガレイがヒラメより高価だと言う。忙しい中でヒイカをつまみ食いすれば、みなに笑われてスルメイカを手づかみで貰ってしまった。ますます重くなったバケツを下げたら、急ぐは民宿「岬荘」である。

 

 

 

しばし休んでの風呂上がり、民宿「岬荘」の厨房をお借りして魚料理は始まった。水どんこは、ぶよぶよとして骨も柔らかく、包丁で難なく頭が落ちてしまう。教わったように皮を手で剥くのだが、これはやはり現場で軍手をしてやった方がいい。

 大きな肝を使った「どぶ汁」はアンコウ鍋で有名なのだが、水どんこでやってみると、けっこういける。民宿の女将さんにも好評で、こりゃよかった!

 料理はほかにガンギエイ(かすべ)の煮付け・ケムシカジカの塩焼き・ヤツシロガイの刺し身・などなどで、今宵は大宴会・・。ところが船の疲れもあいまって、夜は早々に死んだように眠ってしまった。

 

爽やかに目覚めた翌朝、民宿の旦那さんが松川浦には海苔もあるよと教えてくれる。相馬原釜には原釜漁港と兄弟船のある松川浦漁港とがあり、松川浦は浅く広大な入り江になっているのだ。海苔養殖はここで行われていて、「青海苔」なのである。

 早速漁港に行ってみれば、海苔ひびが一面に広がっているじゃないか。軽トラに海苔を積んでいる漁師さんがいて、ちょっとお尋ね。

「あぁ今、切ってきたんだよ。今日が初日で、そうだなぁ4月くらいまでは切るかなぁ」

「えっ、これ今切ってきたの? ちょっと食べていい?」

「あぁいいよ・・」

「うわぁ~、海苔の香りだぁ!」

「まだ切っている漁師がいるよ、船に乗って行ってみるかい?」

 旅はいつもこんな調子で、思いがけない展開となっていく。小さな伝馬船が水面を滑り出すと、素人には海苔ひびと同じ目線がおもしろい。水深は1㍍ほどか、水が透き通っていて水底のハゼが見えるほどだ。

 海苔は「海苔ペット」という掃除機みたいな機械で刈り取るのだが、昔は手仕事だったと海苔漁師の○○さんは語る。最盛期の2~3月は凍るような寒さにちがいない。1日中海に手を入れて摘み取るのだ。

「なぁに、寒いと思うから寒いんだよ」

 しみじみと笑う○○さんの横顔に、海の潮が深いしわを刻んでいる。

 

 

 

#23

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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   

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