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#20 1/19(土) 15:00~15:30 ほか

#20 三本松の定置網

瀬戸大橋を渡りきると、四国は香川県。

 高松の郊外で昼飯に「讃岐うどん」を食い、また漁師町の匂いを追う。左手はいつもまったりとした瀬戸内海で、小さな岬を越えるたびに走馬燈のように映る。収穫のないまま2時間ほども走っただろうか、潮風の匂いを感じると「三本松漁港」だった。

 港町に魚の行商をするオバチャンがいると聞き、親切な人に住宅の路地裏まで案内してもらう。そこには荷台に大きなステンレスの箱を載せた三輪バイクがあり、扉を開けると魚ケースが出てきたり、まな板になったりの優れもの。夕方じゃなくて朝早く港に来なさい! 言われて納得・・・。

 

 

 

 

 

 

 

引田の民宿から駆けつけた翌朝、漁港はやっぱり朝と夕方では世界が違う。出港を間近にした漁船があわただしく、人々も走ったり叫んだり。オバチャンの三輪バイクも見つけたが、行商人は魚が揚がらなければ商売にならない。そんな中で、大型定置網漁船が出港間近と聞く。えっ! 乗りたい・・。

 

船頭らしきに尋ね、漁労長らしきにお願いし、乗組員に頭をさげると「ああ、いいよ」。まったく「ぶらり旅」は何が起こるかわからない。とうとう瀬戸内海で、大型定置網漁船に同乗することになった。船の邪魔にならないあたりに座って、いざ出港! ちょっと待って、そっちの小さな船に乗せてくれない?

「ここは地獄じゃあ、やめとけぇ」

 

 

母船に台船(小船)がつながれて1人、なんだか楽しそうに見えたのだ。やがて船は港を出る、スピードは少しずつ上がっていく。船のエンジン音が高鳴って後ろを見ると、小船は排気ガスと水しぶきの真っ直中だった。時々かいま見られる男の姿は、ヤッケを頭からかぶり、必死の形相でしがみついている。地獄の意味がわかった・・・。

 小豆島が左手の視界に大きく入ってきたころ、前方に無数の浮標が見えてきた。この風景はどこの定置網も同じだが、どこか様子が違うのは周囲に島々があるだけではない。瀬戸内という海そのものが、日本海とも太平洋とも違う気がしてならない。

 

 

 

現場に到着しても忙しいのは小さな台船である。壮大な定置網の「捕り込み網」のロープを外してから、向こう側に廻って自らが網の浮き代わりとなるのだ。台船に乗りたい気持ちはますます強まっていたが、すでに諦めていた。そのとき、一準備を終えた台船が猛スピードで近づいてきて「乗れ! 」と言う。オレは乗った! 長い間海とつき合っているが、この経験だけは始めてだった。台船は無数の浮標を乗り越えて、大型定置網の端に陣取った。瀬戸内海の真ん中にいるというより、地球を反対側から見ている気持ちだった。オレは、興奮していた。

 

母船が網をしぼり出すと、台船はしばしの休憩だ。男はタバコをヤッケの奥から出すと、旨そうに一息をつく。「何がかかっているんだろう・・」「今は、タチウオが多いよ」朝日が高くなってきたのか、輝く海の向こうで母船が一生懸命に働いている。不思議な光景は、愉快な光景でもあった。働けぇ、働けぇーっ! 聞こえないことをいいことに、楽しくて仕方がない。

やがて網がしぼられると、台船は確実に母船へと近づいていく。ほら、と言われるまで気づかなかった。網の中に光るものが走って、何だろうとのぞき込んでいた。その瞬間だ、タチウオの群れが大きな塊となって浮上したのは。すでに両船はぶつかり合うほどに近づいている。母船の漁師も台船に飛び乗る、水しぶきが揚がる。人の声より、この騒々しさは魚たちがわめいているのか。逃げまどうタチウオは手づかみで放り投げられて、大バケツの中では暴れる余地もない。おびただしい量のタチウオの中で、大サワラが時折混じる。高級魚は扱いが違い、丁寧に絞められると水氷の中だった。

 

 

 

捕り込みの喧騒が終わると、漁船は何事もなかったように航路を引き返す。漁港に着くとまた一仕事で、魚の選別作業が始まった。陸に水揚げされると、タチウオだけではなく様々な魚が捕れていたことに気づく。同じ網にアオアジがいてカワハギがいて、アカカマスがいてイボダイがいてクルマエビがいる。やっぱり瀬戸内の海は、どこか違う。

 三本松漁港で突然にも大型定置網漁船に同乗させてもらい、しかも台船にも乗ってしまった。忙しく働いているみなさんにお礼を言っての帰り際、船頭らしきが土産を持っていけと言う。用意してくれたのは箱いっぱいのアオアジで、捕れたばかりだからギラギラと輝いている。一風呂も浴びたいし、ひとまずは民宿へ帰ろう。

全身の潮を風呂で洗い、さっぱりとしたところで土産を再度確認すれば、アオアジは12本入りが2箱で24本! まな板と包丁を持参しての「ぶらり旅」だが、使用するのは始めてで、またしても突然に番外編「漁師料理指南」の実演にカメラは回った。

 詳細は「漁師料理指南」を見ていただくとして、料理は味噌と長ネギだけを使った「なめろう」「さんが焼き」「水なます」と大皿の「刺し身」だ。夕食は民宿料理もそこそこに、大宴会になったのは言うまでもない。やはり四国でも香川県は我ら「ぶらり軍団」に微笑んでくれた。

 

 

#20

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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   

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