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漁師町ぶらり 食と笑顔を訪ねる海岸線の旅

漁師町旅日記 漁師料理指南 プレゼント
漁師町旅日記 初回放送:
#19 1/5(土) 15:00~15:30 ほか

#19 下津井のマダコ

播州室津を後にした「ぶらり軍団」は、なおも西方をめざして岡山県へと入る。塩の「赤穂」をすぎて「備前」の焼き物にも気を止めず、ひたすら漁師町の匂いを追い求めていた。 岡山平野は用水路が古くから整備されて、川魚漁も盛んだったと聞く。だが児島湾から陸封されてしまった児島湖を古の漁港「はちはま」から眺めると、今は昔の風がどうしても聞こえてしまう。

 

瀬戸大橋が遠くに見えてくると、このまま四国へ渡りそうな不安がつのる。何とか岡山で、元気な漁師町に巡り会いたい! 悲壮感にも似た空気が、レンタカーのにわかロケバスに漂っていた。そのとき、まさに瀬戸大橋へと道がカーブを描いた、そのとき。眼下に漁師町らしきを発見。車はとろとろと主流から外れると、瀬戸大橋の真下をくぐり抜けていく。風景は一変して漁師町であり、追い求めていた懐かしい潮の匂いが漂っていた。

 

 

 

 

 

町は海岸線に沿った旧道にあり、なにやら重厚な歴史感が漂う。家々の板塀は火事の燃え跡のように真っ黒で、道行く人に尋ねると「焼き板」といって、かえって燃えにくく類焼を防ぐのだそうな。旧道の両脇に隙間なく連なる、築年は江戸時代じゃないかと思われる家並みに関心していると「民族資料館」みたいなものがあってやっぱり。ここ「下津井」は「北前船」の主要港として栄えた町で、由緒正しい町並みを保存しているのだと、係員のような人が教えてくれる。

 偶然にやってきて、どうやら大変な港町に迷い込んでしまった。それにしても、古い建物に子孫の生活がまだ続いている。夢心地で歩くもつかの間、旧道は新道に行き当たってそこが「下津井漁港」だった。

 

人っ子ひとりいないようでいて、漁港の際に男衆が5~6人、いぶかしそうにこっちを見ていた。大男とカメラやガンマイクをもった異邦人を見る視線は、決して穏やかではない。正直に言うと、この場は知らんぷりをして通り過ぎようと思っていた。中でも赤いシャツを着た真っ黒な潮焼け顔が、特に挑発的だったのだ。ところが後ろを歩いているDが、小声でも鋭く「行け! 行け! 」と背中をつつく。

 どうにでもなれ、と思った。ますます視線を強める男衆へ向かって、歩くしかない。

「こんにちはぁ、ここが下津井の漁港ですかぁ」

 我ながら、白々しい投げかけである。

「そうや」

 応えたのは潮焼け顔で、何とぐちゃぐちゃパーマの「女」である・・。この場面が実は劇的な一瞬なのだが、Cもまさかの展開だったのだろう、カメラが回っていなかったことを告白しておく。そしてこの「オバチャマ」が、実に親切でいい感じ。自らは潜り漁師で、息子たちはタコ漁師だという。下津井のマダコはどんなものかと見せてもらうべく、生け簀へと案内してもらえば、そこはタコのプールだった!

 

 

 

「タコってさぁ、普通はネットに入れてから生け簀へ放り込むんじゃないの? 」

「なんでぇ、そなことせなぁアカンの? 泳がしといたら気持ちがエエやん。このタコは刺し身にするとゴッツ旨いでぇ、タコ刺しぃ、知っとんやろ? 」

「知っているよ、包丁でこう足をくるくると回しながら皮を剥いでいくんでしょう? 」

「ぁああ? タコはこう皮を布巾でつかんで、ベロッて剥くんや。ほんでなぁ、皮ぁ湯がいたら中にキュウリを入れンが、ホンマのタコキュウやないけぇ・・」

「・・・。」

オバチャマはひとしきり喋りまくると、あきれかえったのか家へと帰っていった。タコのプールを見つめていると、下津井の「タコ刺し」が無性に食べたくなってきた。卸売り専門とは承知で現場の職員さんにお願いすると、彼らもまたなんて優しい。プールからいちばん旨そうな1.3㎏をつかまえてきて、急所をグサリ。さぁこのマダコ、どうしょう。

「ネェサンの家かい、オレが案内してやるよ」

 

 

 

自転車に乗った古老漁師の道案内で、漁港外れの白亜のドアをたたく。手に持ったマダコを見たオバチャマは、大きな目をさらにギロリとさせて、「おまえら、なにしに来たんじゃあ! 」と怒鳴られるかと思ったら何も言わず一旦家の中に入ると、手に布巾を2枚持って出てきたではないか。東京から来た「バカ者」にあきれ顔だが、よそ様の玄関は突然にもにわかタコ料理教室の呈をなしている。

「ちゃうでぇ、プロと素人の差やなぁ、アカン! 吸盤ごと剥け言うとるニィ・・あ、うもぅなってきた。これをナァ、こう切ってナ、ほれ食ってみぃ」

 マダコは活けジメしたとはいえ、筋肉はまだ動いている。皮を剥かれた真っ白いタコの足は、薄く切られても反り返ってくるのだ。口に入れるとざくざくと噛み砕けて、甘い香りがいっぱいに広がる。堅いガムのようなものかと思っていたが、瀬戸内下津井の「タコ刺し」は関東のタコ刺しとは大違い。皮の剥き方からして、心意気が違う。

薄切りではなくブツ切りが食べようとすると、切り方が悪いとまた乱暴にバカにする。オバチャマ包丁を奪うと、細かく「隠し包丁」を入れてからブツ切りにしてみせたのだ。男勝りの風貌でタコの皮を手で剥く「下津井のオバチャマ」は、心優しい気遣いの人だった。旨い! 美味しい! 目を丸くして食べる「ぶらり軍団」に、嬉しそうに「せやろぉ!」と叫ぶ。

下津井に笑顔をいただいて、心おきなく瀬戸大橋を渡るとしよう。

 

 

#19

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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   
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