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#17 12/1(土) 15:00~15:30 ほか

#17 坊勢から播州室津

翌日の坊勢島、長井漁港の午後はタイヤ拾いから始まった。アメリカ製のブルトーザーが使うような超特大の古タイヤが、底引き漁船の網に引っかかったのだ。クレーンでようやく岸壁に揚げると漁網は破れ、タコや魚たちがタイヤの重みでつぶれていた。

 「大型タンカーがフェンダー(クッション)に使うのだがね、外れてしまうこともあるけど、多くは捨てられるんだよ。漁師は一日商売にならんし、漁網は修理せねばならんわ。これ処分するだけでも、こっちは5万円もかかるんよ」

 それでも再投棄せずに岸まで運んできた、坊勢魚協の漁師はエライ! つぶれた魚たちは海へ流されて、タイヤだけがそこに転がった。のぞき込むとタコが藤花に似た卵を産み付けていたり、小さなカニがまだ隠れていたりで、不謹慎だがおもしろい世界がそこにはあった。どのくらい、海の底にあったものなのだろう・・。

 

 

 

 

漁港に朝一番で出港した漁船が帰ってきた。走り寄るとワタリガニが、ガサガサと床にぶちまけられて騒々しい。見たこともない大きなワタリガニで、足が輪ゴムで縛られているのに逃げようとうごめく。

 「刺し網で捕るんだよ。海底に2マイル(3.6㎞)ほど網を張ってね。網に絡まったヤツを外しながらの作業だから、忙しいねぇ」

 幅1㍍ほどの網は下部のロープが重りの役を、上部のロープは浮きの役をするので、その様子は海底に張られた屏風であろうか。夜間に海底を移動するからワタリガニなのだが、それらが見事に絡まってしまう仕掛けなのだ。甲羅径18㌢以上は「坊勢ガニ」というブランドで全国に売り出し中と、漁協参事は嬉しそうに笑った。

 

 瀬戸内海は家島群島の坊勢島に別れを告げて、連絡船はまた姫路港へ。途中一泊してさらに西を目指すと、何やらひなびた漁港を発見。降り立った「播州室津漁港」は朝日に包まれて、静かながらも人々はリヤカーを押したり魚を選別していたり。

 おじゃまします・・その中に「ぶらり軍団」が入っていくとのだから、お邪魔どころじゃないはずだ。声をかけたのは偶然にも漁協の職員さんで、親切に説明をしてくれるものだからお言葉に甘えて、もっと中へと入っていく。

 「こんな魚を知ってる? オニオコゼよ」

 東京では超高級魚のオニオコゼが、船から揚がったばかりだった。オバチャンがにこやかに見せてくれるのだが、いかんせん棘は猛毒針である。職員さんが持ち方を教えてくれるが、旅の途中で病院行きは嫌なので不細工な顔とにらめっこをして終わる。

 このあたりで、やっと漁港にオバチャンたちが多いことに気づく。リヤカーを曳いているのもアナゴを割いているのも、みんな女性じゃないか。

 「室津じゃ海が男の世界で、陸は女の天下なんですよ。父ちゃんが捕ってきた魚を、母ちゃんが売るんです」

 なるほど、所変わればである。北陸や東北の漁港で、これほどの女性を見ることはない。そしてみなさんが明るくて元気だから、漁港に嬉しい空気が流れている。漁港が明るく見えたのは、朝日だけのせいではなかったようだ。

 「いよ~っ!! 」

 野太い大きな声が、突然漁港構内に響き渡った。のんびりしていた空気が、一斉に殺気だった。何だろう、オレも走る!

 

 

 

 

 

 

 

「○×□■◇△▼▽××・・・・! 」

 何を言っているのか、さっぱり解らない。魚の入った木箱を競り台の上に投げるように置いて、競り人が叫んでいるのだ。競り落とした者は手カギ棒で荒っぽく引き寄せて、身内のような人が走ってトラックへ運ぶ。

 競り台の後方にはリヤカーに父ちゃんの魚を満載にした母ちゃんたちが、次は誰と順番待ちをしている。こんなに沢山の人たちが、ここいたのかと思うほど、構内は身動きも自由にできないほど熱気だっている。すごい! 何だこれは!!

 ○×◇■▽×●××・・は歌うようであり、高らかに叫んだあとに低音でぺらぺらと符号を言う。どうやら低音のぺらぺらは横に座る女性の事務員さんに向かって、競り落とした人と値段を書き入れさせているようだ。このデカイ声と低い声の連続が音楽のようで、心地よく耳に残るのだ。

 アナゴを割いていたオバチャンのリヤカーが、競り台に近づいてきた。年は聞けないが、60歳は超えているに違いない。元気だ・・。

 「高く売れるといいね」

 「そうやねぇ」

 本当に、心からそう思った。歌う競り声を後ろに聞きながら漁港の裏手に回る。

なぜってさっきから、こっちも人だかりなのだ。

 

うわ~っ、何だここは! 競り場の裏手がもう魚屋で、地元住民がわんさか押し寄せているではないか。人混みを押しのけて目にとまったのは「バリ」とある、「アイゴ」だった。毒針があって特有な臭いを持つアイゴは、「ションベンタレ」などの異名をもつ関東では嫌われ者だ。この10㌢くらいなものが6匹ほどで950円! 何と、魚を卸している漁師の姉ちゃんまでが買っていく!

 小箱のアイゴはぴんぴん跳ねて、あっちの箱やこっちの箱へ。おっという間に売れ切れて、買いそびれたオバチャンがかわいそう。

 「バリはこんくらいのサイズが旨いでぇ」

 播州室津は、恐るべし・・。

 

 

 

#17

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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   

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