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#16 11/17(土) 15:00~15:30 ほか

#16 坊勢

その日「ぶらり軍団」は、朝の7時半に東京は恵比寿の事務所を出発。途中の浜名湖SAで昼食をとるも、ほぼ休みなしで車をとばし、まだ日が高いうちに姫路港に到着していた。まさかの予想は的中して、すでにカメラは回っている。

 目指すは播磨灘のほぼ中央に浮かぶ、家島群島の坊勢島。高速ライナー「ラピート桂」とある乗り場に現れたのは「昔は漁船」のようで楽しくなる。1人片道1000円で、坊勢島までは約30分。釣り竿を持った客が多いので尋ねると、「チヌですわぁ」の声が高速エンジン音に負けていない。関西地方で言うチヌとはクロダイのことで、釣り人の好敵手は関東地方でも変わらない。

 

 

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坊勢島の渡船場に到着すると、港で野菜を売っている。本土から新鮮野菜を船で運ぶ八百屋さんは、島民にとっては命綱だ。3代目、ガンバレ!海岸線の小山を越えると「長井漁港」があって、底引き漁船からの水揚げ真っ最中。じゃまにならないよう「おじゃま」すると、買い物かごを手にした主婦らしきは堂々と中へ入っていく。ここの漁港市場は「競り」や「入札」ではなく、相場で値を決めているから誰もが自由に買えるのだった。

 瀬戸内海の底引き網は、とにかく多くの魚種が捕れる。旨そうなのは「アシアカ」というクルマエビに似たエビで、手にとると職員らしきオバチャンが食べろと言う。頭をちぎって皮をむいて丸かじり、旨ぁい! こうなるとカメラや音声などのスタッフがかわいそうになり、本番も忘れて食えぃ! どうだ!!

 捕れたての瀬戸内エビに感動して、1000円分を買うと、この量がまたすごい。ガサゴソと動くシャコもついでにもらえば、500円分で充分だよと、これも大袋いっぱい。「シャコは生きていないと料理できないよ」と言った職員が、どうやら家に帰って茹でてきたらしい。熱々のシャコが軽トラックのダッシュボードの上に転がっていて、食い方を指南される。いやぁ、坊勢島はのっけから凄まじい。

 

 

宿は高台の「みなと旅館」で、仕入れたばかりの「アシアカ」と「シャコ」を茹でてもらう。双方とも茹で上げると量が倍増するようで、民宿料理もそこそこにしばし食うことに専念。6名の軍団はほとんど口もきかず、ただバリバリムシャムシャの音だけが部屋に響いていた。この旨さは「残骸」を見てもらえば、わかってもらえるだろう。不味けりゃ、ここまで食えない・・。

 

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翌日は早朝だった。不思議な光景が、高台の民宿から見える。ピンク色の大きな塊が並んでいて、学校給食のオバチャンのような集団が楽しそうだ。ぶらりと近づけば、よそ者の出現に何やら緊張が走っているようす。こういうときは、まず声をかけることだ。聞けば「海苔の種漬け」をしているのだそうな! えっ、海苔? 

 突然の素人が納得するまでには、だいぶ時間がかかった。海とはいえ、シダ植物の海苔は胞子で繁殖していく。この胞子を地元漁師は「種」といい、カキ殻に付着させて培養し、秋も深まるころに海に張る大きなネットに移植させているのだ。数十㍍もあるネットが何枚もドラムに巻かれていて、種付けの状況を職員が顕微鏡で確認していく。

 ネットの一部をハサミで切った職員は、駆け足で顕微鏡担当へ走る。合格すると「はい、5番~っ」などとマイクで叫ぶ。待機していたオバチャンは運動会のように、一斉に走り出す。ネットを巻き取って海水に漬け、冷蔵保存して海苔養殖業者に渡すのだ。

 「アンタもやんなさいよ、濡れるからエプロンしなさい! 」

 とうとう、やられた。「4番~っ」のマイクが入ると、「早く、走んなさい! 」これでは朝から、飛び入りの運動会である。やっとコツを覚えたところだが、昨夜の深酒がたたったか、はぁはぁ言いながら降参。オバチャンたちは気心が知れると、人なつっこさにも容赦しないのだった。二日酔い気味の体に缶コーヒーのプレゼント、ありがとう! と満面の笑顔で、缶ビールの方がよかった・・。

 

日も高くなり始めたころ、島の青年団が建てたという山頂の展望台へと向かう。爽やかな空気の中にあっては、見慣れたブタクサも美しい。あえぎながらも展望台に立てば、播磨灘が眼下に広がっていた。

 四国の方向を向いて右手は小豆島で、左手にかすむのは淡路島だ。坊勢島のある家島群島も大小47の島があり、瀬戸内海全体の「島」はまさに「無数」である。高台から見る播磨灘は小春日和のうららかな中にあるが、「灘」とはその字が示すように「水難」の海域を意味している。多くの島が点在することも海底地形の複雑さを表しており、こういう海はまた良好漁場としても知られるところだ。

 1人乗りの底引き漁船で、マアジ・スミイカ・ハモ・ワタリガニ・シャコ・エビ・など溢れるほど捕ってくるのだから、瀬戸内海はよその漁場とちょっと違う。離島とはいえ人々のおおらかさは、温暖は気候と自然の豊かさからもきているのだろう。とはいえ坪井栄や柴田練三郎など様々な作家が小説の舞台とするのは、瀬戸内海の怪しげな魅力なのだろうと思う。高台から微動だにしない青い海を見ていると、その底に何か秘密が、今も眠っているような気がしてくる。

 島を出る前に、もう一度漁港へ行ってみよう。瀬戸内海の底から今日はどんな顔の魚が揚がったのか、しっかりと見届けたい。

 

 

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#16

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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   

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