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漁師町ぶらり 食と笑顔を訪ねる海岸線の旅

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漁師町旅日記 初回放送:
#15 11/3 (土) 15:00~15:30 ほか

#15 富津

房総半島は、勝浦から洲崎灯台を越えると東京湾。前方の三浦半島には霞がかかり、外国船籍の大型タンカーが静かに往き来する。湾奥の東京方面を望めば千葉側から伸びる長い岬に遮られて、これが富津岬だ。遠浅の一帯は、昔からバカガイや白ミル(ナミガイ)などを捕る潜水漁が盛んだが、名物は何といっても「マアナゴ」である。

 

 

富津漁港に面する道路は「アナゴ丼通り」とでも名付けようか、「アナゴ天丼」や「ハカリメ丼」などの昇り旗が連なる。ハカリメとはマアナゴの測線に並ぶ小さな黒斑を「計り目」に見立てたもので、マアナゴの俗称だ。この通りの中央あたりに食堂「山清」はあり、親父はアナゴ漁師ながら厨房にも立つ。実はこの店、私の著作「漁師町のうめぇモン!」「東京湾・漁師町」に登場してもらって馴染みがあった。
 「アナゴ船~っ?! いいよ、乗っけてやんよぉ」
昨日の突然の電話だったが、親父は詳細を聞かない豪快者だ。「漁師町ぶらり」の撮影スタッフは、行く先々で「ぶらり軍団」と呼ばれる。それは少数精鋭といえば聞こえはいいが、初対面でも愉快に笑って常時が本番、風のように去っていくからだろう。深く考えていたら、双方とも何もできない。小型ながらハイビジョンカメラ手にしたC氏、ガンマイクを高々と掲げるM子、D氏、AD子、P氏と私の総勢6名を迎えて、親父も何がなんだかわからないまま、いざ出港!

遠浅の海は船の航路だけを掘り下げて、鉄板を「砂止め」にして両側に埋設。枝が付いたままの竹竿が無数に並ぶ外側は、浅くて危険。やがてその航路を抜けると東京湾の真ん中あたりで、横浜ランドマークタワーが目の前にあった。
 東京湾とはいえ海原の、小さな浮標をどうやって見つけたのだろう。1メートルほどの竹竿に白いハンカチがぶら下がったような、発信器も何もない原始的は浮標だ。船はエンジンが止まると波まかせで、大きく揺れた。
 「どうかねぇ、アナゴ丼は食えそうかなぁ・・」
 今は「山清丸」の船頭となって、親父は黙々とアナゴの仕掛けを揚げていく。仕掛けは1メートルほどの筒型塩ビ管で、アナゴの「穴」を住みかとする習性を逆手に利用したもの。中に小魚の餌が入っているのだが、さっきから餌ばかりが捨てられてアナゴの姿が見えない。揺れる船に、空の塩ビ管だけが規則正しく積まれていく。親父の無口も気になって、わざと元気に声をかけたのだった。
 「食えるよぉ、アハハハ。捕ったばかりのアナゴは泥を吐かすから、その日のは使えねぇ。店には、おとといんのが用意してあんよぉ」
 安心したら、小さなアナゴが1匹バケツに落ちた。前日に70個の仕掛けを東京湾の底に這わせて、これだけの獲物では漁師の仕事も大変だなぁ。そんな表情が読まれてしまったのだろう、「なぁに、おとといは大漁だったよ。海の仕事は、わかんねぇんだなぁ」大声で笑ってくれて、なんだか嬉しい。最後の筒を揚げて、中くらいのアナゴも含めて7匹が大きなバケツで泳いだ。カモメが、投げ捨てた餌の小魚に集まってきた。ワッシャワッシャ、数メートルの距離で聞く翼の音の力強さ。彼らもまた、東京湾で生きている。

 

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  「ひやぁ~っ、何ぃこれ・・」
 厨房でアナゴ天を揚げているのを見つめて、予想はしていたが、現物は予想をはるかに超えていた。40センチはあろう大アナゴを腹開きにして、たっぷりの菜種油だけで揚げる。悪い油で揚げるとこの親父、胸焼けを起こすのだそうな。それで上等な油を湯水のように使い、衣をつけた大アナゴを泳がせてカラリと揚げる。その丸ごとが2本、どんぶりの両端から大きく両手を広げた姿は「雲竜形」か「不知火形」か。
 「山清」アナゴ丼は「つけダレ」に潜らせないのも特徴で、飯の上にあっても客はテーブルの「塩」と「つけダレ」どちらでも楽しめる。しかしながら塩を振ってはみたものの、どこから食いついたらいいものか。大口を開けてはふっ。衣はウエーハスのように砕けて、ふかふかのアナゴに絡む。用意してくれた焼酎のお茶割りをのどに流しつつ、帰ったばかりの東京湾を望む。

 

 

  「今から、アナゴの刺し身を作ってやるよぉ」
 船から食堂にもどると、親父はすぐに包丁を握る。アナゴの刺し身? 実はウナギやアナゴの表皮粘液と血液には弱毒があって、生食はあまり勧められないのだ。だがそれと知る人も美味には勝てないようで、弱毒に目をふさいで食べてしまう。私も始めてアナゴの刺し身を食べたのだが、これが想像以上に旨い。わずかな鉄臭さは血液だろうか、これが身肉の甘さとあいまって、噛みしめるほどに不思議な旨さがにじんでくる。
 「割いたその日は堅いばかりで、2日ほど置いた方が甘味が出て旨いねぇ」
 言われて双方を食べ比べたが、活けのアナゴを食べた経験のない者にとっては、コリコリ感も味のうち。まったりとした甘味は食べ慣れた人にまかせて、私はもう少し躍動感を味わいたい。結局、アナゴの大盛り刺し身を全部平らげてしまった。

 

 「ぶらり旅って、いいなぁ。一週間ばっかりオレを連れていってくれ、オレよぉ、大間へ行ってマグロを追っかけてぇだよぉ」
 ぶらり軍団に全員に、「山清」の親父と女将は同じ「アナゴ丼」を用意してくれた。みんなの歓声は言うまでもなく放映されていないが、それは大変なものだった。D氏がそれらの勘定をいつものように払おうとすると、親父の男気が許さないようだ。女将の「アンタたちに来てもらって、嬉しいんだよぉ」に恐縮、今日の漁獲を知っているだけに心からありがとう。また来るよ! 元気でな! 親父と北の大間で、マグロを追ってみたくなった。

#15

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 釣り曜日 西潟市場

「釣り曜日」
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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   

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