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ホーム > 番組情報 > グルメ > 漁師町ぶらり~食と笑顔を訪ねる海岸線の旅~ > バックナンバー > 漁師町ぶらり~食と笑顔を訪ねる海岸線の旅~#12
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漁師町ぶらり 食と笑顔を訪ねる海岸線の旅

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漁師町旅日記
#12 真珠の貝柱を探して
伊勢志摩国立公園となって、英虞湾を囲む一帯は深い入り江の連続。志摩半島の先端近く御座に宿をとると、民宿のオヤジが漁船を紹介してくれた。沖で真珠貝の養殖をやっているから、ひょっとしたら誰かがおるかもしれん、と言う。
漁船の船頭が気軽に船を出すと、湾の奥へ奥へと進んでいく。やがて無数の浮標が見えて、小さな漁船が揺れているのが見えた。
「これがみんな、真珠貝の養殖いかだだよ」
見渡す限りの浮標の中でも、海の底が見えてこない。真珠貝はこの下で、どうやって真珠を作っているのだろう。どうやって、生きているのだろう。
写真写真
写真写真 「貝を洗っているんですよぉ。10日に1回は貝殻を掃除しないと、固定されている貝は死んでしまうんですよぉ」
作業中の漁船に近づくも、エンジン音がうるさくて話しができない。海の上での珍客に、漁師の親子はエンジンを止め、手を休めて説明をしてくれる。申し訳ない…。
作業を再開するとネットに並んだ真珠貝は、回転する洗濯機に挟まれながら次から次へ。付着した貝殻は、特殊なハンマーでたたき落としているのだった。機械の力を借りているとはいえ、見るからに地道な作業である。
「3年で母貝にして、核を入れたら1年で真珠を育てるんです」
「真珠を取ったあと、身は食べないの?」
「貝柱は最高に旨いねぇ、手には入らんと思うがね」
「・・・・。」
民宿に戻っても、真珠貝の貝柱が頭から離れない。厨房のオバチャンに聞いても「とても高価で冬場のモン」と言われては諦めるしかないのか。
伊勢志摩の英虞湾にいて、真珠貝の養殖いかだを見ながら、貝柱が食えんとは!
またもや民宿のオヤジ、だだっ子のように拗ねる大男に、明日は烏賊浦へ行けという。
翌朝は、夜明けからミンミン蝉がけたたましい猛暑である。車は山登りのような林道をくねって、やがて木々の木漏れ日の中をまたくねくねと下る。オヤジは海と湖を間違えたのではあるまいか、そんな不安がよぎったとき、目の前がひらけて湖のような海の入り江で車は止まった。
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写真写真 石積みの岸壁に近づくと、レンズのような水の中で小魚が群れ泳いでいるではないか。何ということだ!6mはあろう水深の、底の砂粒までが見えている。まだ朝の9時前だというのに、暑さで遠景が陽炎のように見える。漁師小屋は白いペンキが剥げて、古い校舎のように静かに連なる。その一画に、人の背中が見えて、遠い昔の女教師の後ろ姿に重なる。ゆっくりと、歩く。背中が、人の気配を感じている。
「こんにちは」
窓際にたたずむと、そこだけ柔らかい風が吹き抜けていく。窓際は海を向いた角にあり、たった1人のオバチャンが真珠貝に核を入れているのだった。見ていると、まるで手術をしているような慎重で細かい作業が続く。
「もう50年も、ここに座っているのよ。昔はね、200人もいた時代もあったけど、ここじゃ今は私だけ。時々見知らぬお客様が来て、仕事のじゃまをするの。ホホホ…」
作業場の前に簡素な桟橋が架かって、真珠貝養殖いかだに続いている。許しをもらって揺れる桟橋を渡れば、そこはまたもや別世界。
大きな塊となったネットは、母貝を育てているのだろう。それらが連なって、海の底へとぶら下がっているのが真上から見通せるのだ。ずっと下の方では、魚が寄って何やら啄んでいる。
じっとロープが落ちていく水中を見つめると、それは空間につながって、自分が宇宙に浮いたような妙な感覚に襲われてしまう。見えない海が当たり前の時代、見える海は不思議であり、怖いほど神秘的である。
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写真写真 「核を埋め込むときにね、別の真珠貝のヒモを切って入れるのよ。真珠が育ちやすくするためなんだけど、犠牲にする真珠貝が可愛そうでね、ごめんなさいって言いながらヒモをいただくのよ」
ここでもまた、真珠貝の貝柱の話をしてしまった。とても美味しいのよ、と言うだけでオバチャンは笑うだけ。
完全に諦めたころに、真珠貝の貝殻に盛られた貝柱。犠牲になった6ヶの真珠貝から、6個の貝柱が集まっていた。爪楊枝でつまんで、1個を噛んでみる。ジャキッとした堅い繊維をつぶす食感に、甘く何とも言えない貝臭い濃厚なエキスが口に広がっていく。
村っちぃ、ビール買ってきてくれ!あまりに旨いものを口にしたとき、酒がないと神様に逆らったような後ろめたい気持ちになるのだよなぁ。オバチャンはマリア様のような笑顔で、烏賊浦の木漏れ日の中で手を振っている。真珠貝の貝柱は、真珠色の思い出となって記憶の底に生きていく。
写真写真
 

 釣り曜日 西潟市場

「釣り曜日」
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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   
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