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漁師町ぶらり 食と笑顔を訪ねる海岸線の旅

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#9 川魚漁師を訪ねる
高岡市を流れる小矢部川に、川魚を専門とする漁師がいると聞いた。
実は滑川漁港でホタルイカ漁を体験する前日の夕方、高岡市福田の川魚漁師、小橋翁と一緒に仕掛け網を張っておいた。小橋翁は"小矢部川鮭鱒人工ふ化場長"という肩書きながら、何代にもわたる川魚漁師。小矢部川のことなら何でも知っている、笑顔の可愛いお祖父ちゃんだった。
小矢部川は石川県境に近い大門山(標高1572m)を源流とし、富山湾に流れ入る。その距離68?に、雪解け水が土手をけずり、梅雨時は四方から水が集まる。漁場は海から15?ほどの平野地帯で、遠目には緩やかな流れに見えた。
写真写真
写真写真 「どんな流れにも、道があるんだ。道さえわかれば、棒一本でも船は操れる」
全長6mほどの、カヌーのように細長い船は「笹船」と言った。
笹舟とは形から命名されたのだろうが、笹の葉に雨蛙が乗っかって急流を下るがごとし。小型エンジンは年老いてから付けたもので、急流を抜ければ今でも棒一本で川上へ。
時折カワセミが、目の前の土手から飛び出していく。どうやら、その辺りに穴を掘った巣があるようだ。自然なままの土手って、都会でなくても珍しいのではないか。
本流から離れると緩やかな流れは土手の少しの引っかかりに淀みを作る。川魚漁は、その流れの手前に網を仕掛けるようだ。鉄筋の杭がすでに川底に打ってあり、平行に二本ならば一枚の網を、三本ならば二枚の網を張り、網の口は水流に向かって開く要領だ。
上流からやってくる"何か"が、間違って入ることを願うのみ。棒一本で巧みに舵を取りながら、仕掛けを設置して帰路の流れに乗る。
川魚漁を、のどかな川遊びと思っていたら大間違い。船底が真っ平らな笹舟の設計には、安定性の概念が欠けている。
写真写真
写真写真 「明日は昼前に網を揚げるから、飯は食わんと来なさいよ」
何が入っていて、何をご馳走してくれるのだろう。期待は膨らめど、明朝は3時までに滑川漁港へ行かなくてはならない。ホタルイカ漁船に無理を言って、乗せてもらう約束をしていた。
高岡市内へ戻って、サウナでも探して仮眠するしかない。かくして海と川の、混合デスマッチ旅は始まった。
サウナの仮眠室では、あっちへ行ったりこっちへ来たり。慣れない旅人は睡眠不足で寝坊しても、ホタルイカ漁の素晴らしい経験をして再び高岡へ。昼迄には来てくれや、の小橋翁の声がずっと耳に残っていた。
川へと向かう小橋翁の軽トラは、75才とは思えぬハンドルさばき。国道~農道~土手~川縁へと、猛スピードの連続。
「よう来たか」
とのんびりした口調は、逸る気持ちを抑えていたのに違いない。
橋下にエンジンに鍵を付けたままの笹舟が放置してあっても、
「盗るモンなんぞおらんよ」
と走るように乗り込む。
写真写真
写真写真 昨日は気付かなかったが、笹舟の床はべこべことして、立って歩くと破れそうでもある。材質はFRP(繊維強化プラスチック)でも、厚さは7?しかないんだって! 恐る恐る後部に座ったのは厚さだけではない、水かさが昨日より増していて流れも速いのだった。
「山で、雨が降ったんでしょう…」
あとの言葉はエンジン音と、北陸訛が強いせいで理解不能。水鳥の姿も今日はなく、ただゴーゴーと水が流れる。
やがて昨日の淀みに近づくと、鈎の付いた棒で杭から漁網の一端を外す。ものすごいゴミが、絡まっている。山の草はもちろんだが、JA(農協)と書かれた肥料袋も多い。漁網は袋状になっているから、中に詰まったゴミを取り除くのも一苦労。流れで洗ったり、たたいたり引っ張ったり。
ようやくゴミが洗われると、一握りの黒い塊がうごめいているのがわかる。一匹、二匹…上海ガニの仲間のモクズガニだ。共通するところは、両ツメに藻に似た毛を密集させること。梅雨時の産卵期は雌雄で海へ下るが、内子を持つため特に美味とされ、乱獲されることもある。漁業許可や漁獲方法などを、取り決めているのはそのためだ。
ナマズも捕れるようだが、この日はモクズガニが40匹ほど。
「捕れるときの10分の1」
とつぶやきながらも、小橋翁は嬉しそうに笑っている。川魚漁が、とっても好きなんだなぁ…。
持ち帰ると、大・中・小に分けて池のような水槽へ。そこへも入らないモクズガニが、足が取れてしまった、いわゆる傷物。翁がザルに持っていそいそと台所へ回れば「飯は食わんと来なさいよ」の言葉を思い出して嬉しい予感。
写真写真
写真写真 「甲羅に詰まったカニ味噌は、卵巣と味噌と砂糖を混ぜて焼いたものです。カニ飯と、カニ汁の説明はいらんでしょう」
カニ味噌を、箸でからめて舐めてみる。無言のまま、もったいなくて残してしまう…いや、隠したくなってしまう。
食べさせたい酒友の顔が、走馬燈のように頭を巡っているのに、AD村っちぃの強い視線を感じてあきらめる。
カニ飯にはカニ味噌だけが混ざっていて、こってりと甘い。カニ汁をすすって始めて納得、川ガニの味わいは、濃厚にして深い。海の、例えば富山湾のエチゼンガニと比較しても、アメリカンコーヒーと、ウインナコーヒーの違いとでも表現しようか。同じカニでも味は別世界、一度は食する価値あり!
帰り際、小橋翁は食べ残したカニ殻をキネでつぶしている。人間の食べ残しは、植木が食べてくれるんだって。小橋家は植木鉢にも庭にも、カニ殻が散らばっていた。
写真写真
 

 釣り曜日 西潟市場

「釣り曜日」
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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   
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