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#8 富山湾で、ホタルイカ漁に挑戦!
AM3:00の滑川漁港は、ロックンロールが大音響で鳴り響いていた。
富山湾の一大漁港は、ホタルイカ漁を抜きには語れない。沖合にはいくつものホタルイカ定置網が張られて、他の魚など相手にしないほど漁師の鼻息は荒いと聞く。
車のライトをたよりに岸壁の際を進むと、滑川漁業協同組合の建物があって、そこだけ明かりが灯っている。車から降り立てば、誰もいない港にロックンロール…。
写真写真
写真写真 ホタルイカなら滑川と聞き、昨夜は高岡市内のサウナで仮眠しただけで駆けつけた。漁港にはすでに特別乗船許可をもらった第五定栄丸など、ホタルイカの定置網漁船団がアイドリング状態で勢揃い。若い漁協職員が走り寄り、すぐに出航とだけ告げる。
漁協の2階は番屋小屋となっているようで、ゴム合羽姿の男衆がぞろぞろと降りてきた。オレのことなど、全く無視して船に乗り込む。
挨拶もままならぬまま救命胴衣をつけると、船はすでにロックンロールの港を滑り出していた。
小雨は沖へ出ると大粒の雨となり、船のライトに反射すれば雪が舞うようにも見える。初夏とはいえ、雪と見まがうほど寒かったのだ。なにせ用意せよと言われた防寒具は、100円均一で買った極薄合羽のみ。風雨にあおられては、邪魔なだけで用をなさない。
「悪いときに来たよなぁ。このところ不漁続きなんだよ。このカモメもよ、イワシを狙って来たンに違ぇねぇや」
船頭が冗談ともつかないつぶやきを、わざと聞こえよがしに言う。漁船員も寒さに耐えられず、一斗缶に薪を投げ入れるも火勢が悪い。そこに灯油をぶちまけて、みんなが一斉に驚き笑いだす。何処の漁師も、似たような悪戯が好きだ。
写真写真
写真写真 出航してから30分ほどか、漁場はそう遠くはない湾内だった。
船のサーチライトが、いくつかの浮標を探し当てた。漁師が鈎棒で引き揚げると、漁網の両端が母船に固定される。数基の揚網機が、一斉にうなる。それでも漁網は、人の力が加わらないと均一に巻き揚がらない。10数人の屈強な男達も、横一列に並んだ。
夜の闇に、カモメの白い腹が飛び交う。網が絞られると、さらに数を増して水面に突進していく。狙いはやはりカタクチイワシだ、イワシの黒い背が網の中でうごめいている。
船は揺れる、雨は降る…と、その時。
青光りが大きな塊となって、海の底から浮かび上がった。塊はやがて秩序を失い、漁網の中をめまぐるしく泳ぎ出す。ホタルイカだ!
カモメは狂ったように水中へ突き刺さり、青光りするくちばしのまま飛び去ってはまた戻る。夜空に、ホタルイカの青い光が飛んでいく。ホタルイカの足は、カモメのくちばしに巻き付いて暴れているのだった。青光りする、断末魔。夜空にも、おびただしい数のホタルイカ…言葉を失う、ただ見ているだけの世界。
漁師は絞った網が足元にたまると、足で蹴って海へ落とす。見ていると忙しそうで、オレはつい手を出してしまった。「よう来たか」よりは「遅せぇオメェ」の空気に安心して力が入る。ところが、漁網は鉄のように重い。ジーンズの上に海水を含んだ網が落ちて、その足でホタルイカの付着した辺りを蹴っ飛ばす。靴も何もぐちゃぐちゃで、手がふやけてくると指に網が食い込んでちぎれそう。
写真写真
写真写真 あきらめて退散すれば、燃える一斗缶の金網にホタルイカが放り投げられた。手伝ったお返しかと、ぷっくり焼かれた一匹を口に入れたら、灯油臭くて食べられない。やむなく薪を足して灯油を燃し尽くせば、船上のホタルイカ焼きはなんて旨い!!
2つの定置網を揚げて、帰港したのはAM8:00だったか。網に混じった魚を別に分けて、ホタルイカは同じ目方に計られて市場に並んだ。同じ日に捕れたホタルイカでも、扱い方によってランクができると居合わせた仲買人が言う。やや薄茶色に色落ちしたものはランクが落ち、濃い小豆色が極上のようだ。
落札したホタルイカを運び去ると、漁師の1日は終わり。昼時の朝飯は夕食でもあり、漁協2階の番屋小屋では数十人が一斉に食事組と酒組とに大部屋を分かつ。船頭に誘われては酒組の座卓に腰をおろして、まずは一杯。焼酎田苑を傍らに置いて、今日の反省会は始まった。
内臓を外して洗ったホタルイカに、感動はなし! 甲板に落ちて拾ったホタルイカの方がよっぽど旨いと、酔いにまかせてのたまえば、共感の印はジョッキのおかわり。
外道で入ったサワラやメジナは塩焼きにされて、こちらは段ボールが皿代わり。漁師用のおかずこそ、漁師小屋では最高のごちそうだった。
写真写真
 

 釣り曜日 西潟市場

「釣り曜日」
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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   

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