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#4 潜水漁の船に乗ったよ。
潜(もぐ)り漁と、潜水(せんすい)漁とは違う。
同じく水に潜っての漁には違いないが、前者は素潜り(ウエットスーツは着ても、エアタンクは禁止)。後者は宇宙服のようなヘルメット型ドライスーツに身を包み、船上から送気管を通じてエアを送ってもらう。潜水時間はおのずと前者は最大3分、後者は生理現象さえ我慢できれば何時間でも可能だ。

素潜りは水深5~8mの岩礁地帯でサザエやアワビなどを探すのだが、潜水漁は水深10~15mの泥砂地で、バカガイやトリガイ、ミルクイやタイラギなど主として二枚貝を漁獲する。泥砂に深く潜っている二枚貝は、探すのも掘り出すのも時間がかかるため、素潜りではまず不可能。漁師は砂に覗いた水管を「芽」と称して、これを探す。
写真写真
写真写真 「芽はよぉ、水ん中で光んだぁお。ぎゅっとつまんでよ、放水管の水で砂を吹っ飛ばすだぁお。若ぇころはションベン我慢して15時間も潜っていたんで、腎臓を悪くしちゃってよぉ。息子の代に交代だぁお」
横須賀市は安浦漁港で、代々潜水漁を営む小松原さん。戦後の埋立てと水質の悪化でミルクイなどが絶滅、潜水漁をあきらめた時代を過ぎて15年前に復活させた。
「海が、戻ってきたよぉ。オレの代で終わらせたくねぇと思っていたら、息子が継ぐって言いやがって…うれしかったよぉ」
その潜水漁の船に同乗させてもらった。
早朝、すでに一回目の漁は終えている。東京湾に面する安浦漁港は、埋立てられた広大な敷地の中にある。発電所の煙突とショッピングセンターと軍港を目の前にした、ちょっと沖合。ここが、潜水漁のポイントだった。
息子さんが船のミヨシ辺りに座ると、毛糸のももひき風をズボンの上から履きにかかる。毛糸の靴下は3枚ほど重ねただろうか。やがて男2人がゴムのスーツをエイヤっとばかりに着せて、その上に重り4貫目が2つ…なんだか知らないが装着する総重量は60?なんだって! 片方の靴一個だって、オレにゃ、ちょいと重いぜ。
写真写真
写真写真 船縁に梯子が下ろされて、重そうな宇宙服姿がゆっくりと下りていく。ヘルメットが装着されると、エアをシュー シューと吐く音が聞こえて、そのまま水面から消えてしまって、泡だけが辺りに広がった。
「どうだか、あったか」
「ねぇな、ナマコが多いな…あぁ、一つあった」
こんなやりとりの声が、スピーカから聞こえる。
「昔のエアは父ちゃん母ちゃんが手で押したものだが、今はコンプレッサー任せだよ。命にかかわるもんだから他人には触らせなかったが、機械の方が安心だぁ。アハハハ」
親父は水面の泡立ちを見ながら、巧みに船をあやつる。時折、「探しているなぁ動きが早ぇよ…」なんて、つぶやきながら。
「上がってこいやぁ、へぇいいやぁ」
の一声で、息子さんのヘルメットは水面に表れた。いや、その前に獲物が入ったスカリがしっかり引き上げられている。息子さんは何事もなかったようにスーツを脱ぎ、タバコをくゆらす。水は一滴も、服に付いていない。
「上がったあとのタバコが、甘くて旨いんだよ」
「いやぁ、こっちが旨ぇ! たまらん!!」
漁師がミルクイを船上で剥いて、食えと差し出したのだ。あの、高級貝のミルクイだぜぇ! 醤油も何もいらない、海の香りに何を足すことがあろうか。
水管は皮を剥いただけで、丸かじり。コリコリでシャキシャキで、ぷわ~っと塩っぱくて甘くって…。こんなのが、真下の砂の中に潜んでいるのか。捕ったばかり、贅沢しているなぁ。
写真写真
写真写真 ちなみに白ミルと呼ぶ貝がある。これはナミガイのことであり、ミルクイが高級になったために白ミルで売り出したのだ。で、本家のミルクイは本ミルと呼ばれるようになった。本名は、ミルクイである。ミルクイには水管の脇にミル舌という内臓を包む筋肉があるが、ナミガイにはこれがない。だから、別種の貝なのであ~る。

船に転がっていた包丁は、見るからに漁師の包丁だね。真っ赤に錆びちゃってさ、しかもステンレスだぜ。こんなんで、なんでも刺し身にしちゃうんだから、漁師は偉い。気取ってないもんね、たかがミルクイだもんな。
帰りにしっかり、ミルクイの土産までいただいてしまった。
どうすんだよぉ。村っちぃ!
 

 釣り曜日 西潟市場

「釣り曜日」
(株式会社エンターブレイン運営サイト内)
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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   

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