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漁師町ぶらり 食と笑顔を訪ねる海岸線の旅

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漁師町旅日記
#3 神奈川県水産総合研究所から長井漁港を訪ねる
三浦半島の南端は三崎のようだがすぐ沖合に城ヶ島があって、橋でつながっていればこちらが南端だ。往復100円の通行料を払って城ヶ島大橋を渡ると、右下方に神奈川県水産総合試験場の建物が見える。漁業のこと、食のこと、海全体のことを多角的に研究ながら現場に生かす努力をしている。

栽培技術部長の今井利為さんに、館内を案内していただいた。
海に面した大きな丸い生簀では、マダイを人工育成中。隣りの建物には何があるのだろう…。
「きゃぁ、かわいい~っ!」
村っちぃが叫ぶも、なんだかよく見えんなぁ。えっ、これサザエ? 手のひらに直径2?ほどの白い粒があって、それがサザエの稚貝なんだって。
写真写真
写真写真 「人工孵化してから2ヶ月ほどでしょうか。水槽ではカジメなどの海藻の餌しか与えられませんから、最初の殻色が白くなってしまいます。原因ははっきりしませんが、放流サザエと天然サザエを見分けるには便利ですね。ちなみに県下で漁獲されるアワビのほぼ100%はここで生産された、放流アワビです。サザエも半数近くになってきましたよ」
なるほどねぇ、地道に種苗を生産して、放流する人たちがいるから、ぼくらは海で魚を釣ったり、時にはアワビを食べたりできるんだな。
「村っちぃ、食え!」
「えぇ~っ!?」
元気なADは年頃を過ぎても未婚のまま、元気はいいが何事も過ぎてはいけない(笑)…。その村っちぃが、キビナゴを頭から丸かじり。大喜びしたのは言うまでもない。漁港でなきゃ、こんな経験出来ないもんなぁ。
「こちらは、アマモという海草を育てています。稲科のアマモは"海藻"ではなく"海草"なんです。種子植物で、海中で白い花も咲かせます。種から育てて、田植えをするように海に潜って植えるわけです。アマモ場は、かつては東京湾に多く自生していたのですが、水質の悪化と埋立てにより全滅しました。メバルやスミイカの産卵と孵化場として、海の浄化の面でも非常に重要視されてきたアマモ場を復活させることは、海を作り直すことでもあるのです」
ひやぁ~っ、勉強をしてしまった!
漁業は放流や栽培だけではなく、海を作り直すことまで始まっているのか。感動は、空腹を呼び起こすなぁ…。
写真写真
写真写真 三浦半島でも相模湾が広がる長井漁港は、横須賀市西部漁協の要でもある。ちなみに横須賀市東部漁協は、平成町の安浦漁港を拠点とする。
東部は底引き網漁が主体で、イシモチやコノシロ、ナマコ、カレイや、やや中層を泳ぐスズキやボラなどが多い。西部の長井ではイワシやサバなど、大海原を二艘引きで行う巻き網漁が花形。岩礁地帯では潜り漁でサザエ、アワビなどが捕れる。サバの水揚げ風景は一船に何十トンと捕れるため、それはダイナミック。そんな風景を期待していたら、今日は不漁で水揚げはなし。がっくりと元気をなくしたところへ、長井水産の統括部長、宍戸さんが声をかけてくれた。
「社員食堂で、メシでも食っていきな」
採れたてのワカメを塩蔵加工している光景を垣間見ながら、二階の社員食堂へ。そこは、気さくなオバチャンたちが集う楽園だった。
ボイルされたウチワエビは特別なんだろうが、大鍋から茎ワカメの煮付けを勝手にとったり、遠慮を忘れるほど家庭的な社員食堂だ。
「外部の人は500円で定食が食べられんのよ。けっこう来るわね、知っている人ばっかりだけど…ハハハ」
魚市場の二階から、海を見ながら捕れたての魚を食う。これで、ビールがあったら至福だなぁ…。
「酒は、置いてありません! アタシの分しかネ!」
写真写真
写真写真 漁港は刺し網漁船がちらほら帰ってきほかは、サヨリの巻き網漁の元気がいい。こちらの巻き網は、1人が操る伝馬船。漁探機を見ながらサヨリの群を遠巻きに網を張る、そのまま引っ張れば一網打尽とはこのことだ。
春はサヨリの旬、大型は1本で600gもあり、こちらは高級寿司屋行き。中型は1本200~300g、これだって身はたっぷりとしてサラリとした甘味が全身を包んでいる。「旨そうだなぁ・・1本、欲しいなぁ」
視線はモノを言うが、気持ちだって背中で感じるときがある。船倉から一心にサヨリを水揚げしていた漁師が、ジロリと振り向いた。
「もってけぇ、ほれっ、ほれっ」
「お金、払います…」
「いらねぇよぉ!」
ありゃぁ~、小型ながら4本も陸に放り投げてくれちゃったよ。
欲しかったくせに、いざ手に入れて、どうしようとは情けない。
4本を手にオバチャンのいる厨房へいそげば、漁港の人はみんな優しい。片づけた厨房の電気をつけてくれて、洗い終えたまな板まで出してくれた。
1本100gほどの小型サヨリは非常に下ろしにくいのだが、それでもようやく刺し身にすれば、
「アンタ、上手じゃないの」
「…プロ、だモン」
写真写真
写真写真 食堂よりは、岸壁に座りたい。ぺろりと一切れを口に放り込む。ぷりぷりとした食感と捕れたばかりの魚の甘味を潮風がくすぐる。何も、言えない…。
「はい、どうぞ!」
実は、ビールがたまらなく欲しかったのだ。ADの村っちぃが、ここぞと気を効かせてくれて缶ビールが目の前に。
「うんめぇ~!!」
断っておくが、ビールだけじゃこうはいかんのだ。漁師さんから思いがけずいただいた、この海で捕れたサヨリがあっての、ビールの旨さだったのだよ。
 

 釣り曜日 西潟市場

「釣り曜日」
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1953年 新潟県に生誕。
「食と笑顔」を人生のテーマに、旅と取材と執筆活動を続けている。
現在、アウトドア誌で「食」に関するエッセーや、日刊ゲンダイ「市場食堂で食う」(写真も)などを連載中。
 
   
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