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#1・#2陽春の三浦半島をぶらり
小さな芦名漁港では、小高い山の入り口に鳥居があった。誘われるままに石段を登ると古びた祠が建っていて、底の抜けた柄杓を奉納して海の安全や安産などを祈願するのだという。古代神の猿田彦を奉ってあるのだが、四国地方に全く同じ伝説がある。きっとカツオなどを追ってきた古の漁師たちが、ある事情でこの地に残り、故郷の神殿を建て奉ったのだろう。隣りにはこれも漁師町でよく見る竜宮様を奉る小さな祠が、やはり海に向かって建っている。こころなしか西を向いていて、オレには故郷西方を見つめているように思い、しみじみとしてしまう。 |
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ぶらりとすれば、隣りは佐島漁港。魚屋さんが並んでいて、冷やかし半分でのぞくとキビナゴが両手に一杯ほどで200円だ。九州辺りでは大皿に菊花盛りにして人気魚だが、関東では面倒を嫌って人気薄。捕れたてはピンピンとして、いかにも旨そう。一匹を丸ごと口に放り込んで、旨い! 腹のほろ苦さと、捕れたての魚身の甘さが潮風によく合う。
「村っちぃ、食え!」
「えぇ~っ!?」
元気なADは年頃を過ぎても未婚のまま、元気はいいが何事も過ぎてはいけない(笑)…。その村っちぃが、キビナゴを頭から丸かじり。大喜びしたのは言うまでもない。漁港でなきゃ、こんな経験出来ないもんなぁ。 |
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海辺はワカメ干しの真っ盛り。採ったばかりを生のまま干すこともあるが、見た目の美しさから湯通しして青くなったところで干す漁師が多くなった。近年はまた、塩蔵ワカメの人気が上昇中だ。天然ワカメの湯通しモンを少し分けてもらうと、味噌汁が欲しいなぁ…。
シラス漁解禁前の山茂丸は、暇を持て余してした。自家製の煮干しも少し頂いて、厨房も貸してとはあつかましい旅人だ。味噌をやや濃いめに溶き、沸騰させないでたっぷりのワカメを入れる。温まったらできあがりだ。煮干しもさること、採ったばかりのワカメからは海の出汁だよ!
「村っちぃ、どうだ!」
「ひやぁ~、ワカメがこんなに美味しいとは知らんかったぁ! ギャハハハ」
“海岸線ぶらり”は“旨いモンの拾い食い旅”の様相を呈してきた。さぁ、ちょいと東京湾も覗きたくなってきたぞ。 |
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三浦半島は先端付近から、大根畑を抜けると宮川湾と標識が。くねくねと坂を転がってみれば、何とも風光明媚な景色にたどりつく。小さな入り江に小さな漁船が休んでいて、そこに「まるよし食堂」の暖簾が下がっていた。足は当然のごとく店内へ。“ハバノリ定食”って何?
「少しクセがあるけど、一度食べたら病みつきになるわね」
店は50代(?)の笑顔の素敵な娘さんとお母さんの2人できりもり。“ハバノリ”は夜明け前から磯に出て、採取してくのだそうな。今朝のモンが乾いているとのことで、さっそくハバノリ定食を注文。何じゃ、こりゃ? アオノリらしきが揉みしだかれて粉になっていて、ご飯と味噌汁の定食が1000円かよ。教えられるままに、暖かいご飯にハバノリをたっぷりと。醤油をわずかにふって丼を持った瞬間! 口元に近づいた瞬間! 50数年の人生で嗅いだことがない、強い磯香が立ち登っていた!! 旨ぁ~い!
で、ハバノリって、どんなの?
「これよ、そこの磯に行けばまだあるわよ。注意されたら、私の替わりだって言ってね」 |
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年期の入ったザルを二枚持たされて、いざ磯場へと急ぐ。ふむふむ、またおもしろくなってきたぞ。干潮の磯はアオノリだのヒモのようなナノリだのが一面で、やたら滑る。サンプルを手に汗が流れ出したころ、それらしきを発見。発見したら、いくらでも見えてくる。それでも疲れ切って、早々に退散。一枚目のザルの底に一握りなら、定食の1000円は安いと今さら納得。姉さんはそれでも笑いながら、一枚にも満たないハバノリを簾に並べ、傾く西日に向けて干してくれた。
「明日の朝には乾くわね、ホホホ」
品書きを見れば、ヒジキが解禁されたばかりで“ヒジキ煮”なるもある。“アオノリ段々”って何だろう。もう日が暮れるよぉ、村っちぃ~…。 |
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まるよし食堂は、実は民宿もやっていた。プロデューサーの海野さん、察してくれてありがとう! 泊まると決まればビールだろう、酒だろう。姉さんがお銚子に酒を注ごうとしたら、制したのは驚いたことに村っちぃ。彼女は一升瓶を抱えての茶碗酒を、飲み方の極意とするのだった…。それぞれの寝間に解散しようとする午後10時、彼女は一升瓶を抱えて茶碗を片手に消えていったのは言うまでもない。
漁師町ぶらり、どの旅にもADは付いてくる……。 |
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